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映画の社会学2011第7講 批評的方法(1)原作と映画 [映画の社会学]

映画の社会学 第7講 批評的方法(1) 原作と映画

<批評的方法とは?>

 個々の作品を対象に研究します。メディア論的方法のように映画という物自体を総体的に扱うわけではありません。個々の作品を対象にするため、個々の作品内容(製作者のメッセージなど)、制作の手法、時代や社会の影響、原作との比較など。こうした視点に注意しながら一つの作品をじっくり取り組みます。

<映画の脚本>

 映画の元になるのは脚本です。脚本をもとに映画が制作されます。初期の映画作品の多くは映画用に書かれたオリジナルの脚本が使われました。しかしいくつかの理由から原作のある作品が制作されるようになります。映画の原作には次のような種類があります。

戯曲(演劇)
小説
マンガ
ゲーム
ドラマ
映画(リメイク・続編)


<原作を映画化する理由>

1.原作の内容を社会に紹介するため

 原作を知っている製作者が作品のすばらしさを広めるために大衆メディアとしての映画を利用するということ。

2.メディアミックスとして

 原作を含め、タイアップされた商品や作品全体の売り上げを伸ばすために映画を利用することがあります。特に出版業界の縮小には歯止めがききません。映画がヒットしてその影響で本の販売数が伸びれば一石二鳥になります。

3.売り上げが予想できる作品が制作できる

 原作の売り上げや人気からあらかじめ収入が予想できる作品を映画化することができます。1つの作品がヒットすれば映画産業全体の盛り上げにつながります。あらかじめ売り上げが予想できれば、制作費が回収できない映画を制作しないことが可能になります。

4.安定した作品を制作できる

 白紙の状態から内容を考え、脚本化すると内容が固まるまでに時間がかかり、全体の構成もぶれる場合があります。構成がしっかりした原作を使えば、構成がしっかりした映画を制作することができます。さらに出演者はあらかじめ作品全体のイメージをとらえ、役柄を考えやすくなります。ただし映画は作品として原作の世界観に制約されます。

<原作から映画化するポイント>

1.原作を忠実に再現

 小説(文学)を映画化する場合、最近は原作の世界観や雰囲気を可能な限り忠実に表現しようとする映画が多くなっています。ただしメディアによって演出に違いがあります。

2.原作の枠組みだけを利用する

 原作を特徴付けるような枠組みだけを利用して、ストーリーは原作とは異なった内容にする映画があります。たとえば「時をかける少女」は男2人女1人の関係、タイムリープという能力、過去の書き換えという枠組みが用いられて映画化されました。

3.登場人物のキャラだけを利用

 物語、構成、枠組みなどは独自につくり、キャラだけを利用する映画があります。その結果、別々の作品の登場人物を集めた新しい作品を創出することがあります。

<小説と映画のメディアとしての違い>

小説:文字を読み、読者が場面を頭の中で想像する
 →基本的に文字で情報を伝達
 →登場人物の心情を文字で表現
 →読者自身のペースで読める
 →わからないときは自分で内容を再確認できる

映画:観客の五感を刺激する
 →基本的に視聴覚に対して刺激する
 →映画の内容、設備によって臭覚や触覚も刺激する
 →登場人物の心情はセリフ、ナレーション、字幕、演技で表現

 小説と映画は全く異なるメディアです。同じストーリーでも異なった表現が必要になります。原作と映画は全く別の作品だと捉えるべきです。映画が原作とは異なったイメージなるから、原作と映画で異なる点があるというだけで、映画の善し悪しを判断していけないと言うことです。

<原作と映画の差異を分析する意義>

 たとえ原作に忠実に映画化する場合でも、映画化に際して原作の内容を変更する場合があります。その変更点には製作者の意図、意味、作品に込めるメッセージがあります。原作と映画は全く異なる作品であり、2つの比較して善し悪しを判断することに妥当性はありません。しかしその差異には映画の内容を理解するためのヒントがあります。

<代表的な変更ーカット>

 原作から映画化する時に行う代表的な変更は「カット」です。変更には多くの理由がありますが、その典型的な理由をあげたいと思います。

1.尺(時間)を短くするため
→映画の放映時間はある程度決められています。
→あまり長いとトイレ休憩を入れなければなりません。

2.コンテキストからその場面が削除されても意味が通じる場合
→小説と映画では内容の認識方法に差があります。

3.その場面がない方がストーリーの流れがスムーズおよび単純化されるとき
→映画では小説のように何度も繰り返して内容を確認することはできません。
→1回観ただけでストーリーを理解できるように制作しなければなりません。
→上記の理由は内容の変更にも当てはまります。

【課題作品】

『阪急電車 片道15分の奇跡』2011年4月公開

監督:三宅喜重(みやけよししげ)
脚本:岡田恵和(おかだよしかず)

<本作での最大のカット>
映画化に際して大きくカットされた場面:征志とユキの物語
→小説ではオープニングとエンディングに位置づけられた重要な物語です。ただ他のストーリーと比較すると物語としての独立性は高い部分になります。
 この部分をカットすることによって次のようなメリットがありました。

→上演時間が短くなる
→スピンオフを制作して映画の宣伝に利用できました。

 この部分をカットするために映画本編にもいくつか修正が加えられ、原作では十分表現できていなかった独自のメッセージが加えられました。



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