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映画の社会学2011第14,15講 批評的方法(7) [映画の社会学]

映画の社会学 第14,15講 批評的方法(7) 第3回リポート

【第3回リポートの案内】
課題作品:
「SPACE BATTLESHIP ヤマト」(2010年公開)

監督:山崎貴
脚本:佐藤嗣麻子
制作会社:ROBOT(TBSが立案)


【課題】
「実写版ヤマトを分析する」

以下に示す4点について分析し論述しなさい。

分析内容:

①森雪が生活班ではなく戦闘班に変更されたことについて
 →理由、物語の中での効果などについて

②佐渡先生が男性から女性に変更されたことについて
 →理由、物語の中での効果などについて

③ガミラスが人型ではなく、集合意識体に変更されたのはなぜか
 →その理由、意味について

④古代進の設定が変更されたことについて
 →年齢が18歳から38歳へ、一度除隊したことなどの理由や効果などについて

【レポートの注意事項】

小論文にすること。
感想文や作文ではない。
箇条書きやメモ書きの様式ではなく、文章で表現すること。

自分の主張に関する「根拠」を明確に論述すること。

分量:800字以上

【レポート提出方法】
MICCSあるいは電子メールを利用すること。
メールでの提出先: 授業中に指示したアドレス

電子メールの場合、「受理確認メール」(自動応答)を確認すること。ドメイン指定に注意!
ケータイメールを許可する。

【提出期限】
2012年1月19日17:00


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映画の社会学2011 第13講批評的方法(6) 知的触媒として扱う方法(2) [映画の社会学]

映画の社会学 第13講 批評的方法(6) 知的触媒として扱う方法(2)

課題作品
『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』(1977年公開)
監督;舛田利雄
脚本:藤川桂介、山本暎一
音楽:宮川泰
☆テレビ放送版を再編集して公開

人物設定(1)
第一艦橋クルー:
戦闘班班長(古代進)、生活班班長(森雪)、航海班班長(島大介)、技術班班長工場長(真田志郎)、機関長(徳川彦左衛門)、通信班班長(相原義一)、戦闘班副長(南部康雄)、航海班副長(太田健二郎)、艦長(沖田十三)

→メインクルー9人のうち女性は森雪だけ。

人物設定(2)
ヤマトのなかでの女性の役割:
最新の『復活篇』ののぞき、ヤマトにいる女性隊員の大部分は生活班に所属し、おもに隊員の生活を助ける。画面の中では看護を行っている部分が大部分。

→女性隊員は戦闘に従事していない。

ヤマトにおける女性隊員の位置づけ

ヤマトに女性隊員が少なく、その役割が限定されている理由
→当時の日本のジェンダー意識
→性別役割分業
→「大和は男の艦だ!」(漁師の言葉)

☆アメリカでさえ戦闘に加わる女性隊員はほとんどいなかった。

→『G.I.JANE』(1997)参考

人物設定(3)
登場人物の大半が18歳前後、残りは高齢者。中年隊員は技術長真田志郎だけ。
→視聴対象者を想定(既述)。
→第二次世界大戦末期~戦後の日本の状況を反映

☆戦争によって日本は働き盛りの年齢層を失った。

人物設定(4)
デスラー総統は誰か?

「総統」とは? 一般に総統という言葉はナチスドイツの最高官職で、大統領、首相、党首の全権を掌握する。ヒトラーがこの地位をつき絶対君主のように独裁権を行使した。
ガミラス帝国はナチスドイツを想起させるファシズムの国。
→第二次世界大戦中は同盟国
→戦後、ファシズムは日本の敵と考えられた

遊星爆弾とは?
遊星爆弾によって地球は赤茶色の生物のいない、放射能に汚染された星になった。

☆放射能=核爆弾(核技術)
☆日本は唯一核爆弾が投下された国
 →核爆弾の放射能によって汚染された国

世界情勢(1)
第二次世界大戦後、アメリカとソ連という二大巨大国、民主主義vs社会主義、資本主義vs共産主義 という対立構造=冷戦体制が確立されていた。

アメリカとソ連は競争するように核開発を行った。第三次世界大戦=核戦争の脅威が高まっていた。

世界情勢(2)
日本はアメリカの同盟国。ソ連は現実に存在する「敵国」であると認識された。

戦後、ドイツは東西に分裂し、1つの国の中で社会主義と民主主義とが対立していた。社会主義国である東ドイツはソ連の同盟国となっており、日本には東ドイツ=ソ連というイメージがあった。
→ガミラスはナチスドイツを想起させると同時に、現実に存在する敵国のアナロジーでもあった。

デスラーとは誰か?
冷戦体制の中で具体的に「みえる」敵国の象徴。

日本国憲法には「仮想敵国」と記述されているが、ベルリンの壁崩壊、ソ連解体までは・・・自由主義国に対立する敵に具体性があった。

世界情勢(3)
科学文明の行き着く先
第二次世界大戦後、世界は科学理論を現実化した産業技術文明を発達させた。いわゆる科学文明隆盛の時代である。ガミラスは地球の文明よりもはるかに進歩した科学技術をもつ文明として描かれた。しかしその技術をもつガミラス星は瀕死に直面しており、結局、ヤマトに滅ばされる。
→科学技術文明(産業文明)は自らの首を絞めることになる
 (環境汚染、地球温暖化など)

なぜ大和なのか(1)
戦艦大和は日本海軍が命運をかけた世界最強の戦艦。片道分の燃料しかもたない無謀な特攻によって沈没した。

→戦争の象徴
→敗戦の象徴

『宇宙戦艦ヤマト』は軍国主義に賛成?

なぜ大和なのか(2)
戦争は忘れるべき出来事なのか?
→戦争の悲惨さ、争いのむなしさは語り続けるべき

「我々がしなければならなかったのは、戦うことじゃない。愛しあうことだった!」(ガミラス星を滅ぼした後の古代進のセリフ)

ヤマトは軍国主義でも戦争を鼓舞するためでもなく、平和を訴えるためにつくられた。

高齢者の役割
メイン3人が高齢者なのはなぜか?
→先人の知恵を若者に伝える
→戦争の無意味さを後世に伝える

☆ヤマトは宇宙旅行をしており、乗員はヤマト艦内に閉じこめられている=寮生活を続ける学生と同じ
ヤマト=学校(『新たなる旅立ち』)

なぜ大和なのか(3)
第二次世界大戦中の戦艦大和出陣のシーンはなぜ挿入されたのか?
このシーンは続く錆だらけの大和とセットで捉えるべき
→世界最大の戦艦の沈没と廃艦を表現することによって一つの時代の終焉を象徴する。同時に悲惨の過去との決別(ただし忘れるのではない)

大和でなければ演出できない(金剛、長門などではだめ)
波動砲の使い方
波動砲=ヤマト最強の「武器」

『宇宙戦艦ヤマト』(1作目)では波動砲は敵を直接殲滅する「武器」としては用いられない。
→波動砲のテストのために「浮動大陸」をうつ
→進路確保のため「コロナ」をうつ
→ガミラス星から脱出するため「火山」をうつ

ヤマトは「戦」艦?
ヤマトは戦艦ではあるが、自ら戦いをしかけていくことはない。原則的に「専守防衛」という態度をつらぬく。

→太平洋戦争では日本は自ら戦争をはじめた。
→アジア諸国を占領していく。

日本国憲法には「日本は武力を持たない」と明言され(平和憲法)、自衛隊はあくまでも「専守防衛」のための「組織」とされる。

群像劇としての要素
一般にアニメーション作品は子ども向けに製作されるため、主人公を軸に物語は進行する。ヤマトは古代を軸に物語は進行するが、同時にサブキャラクターがキャラだっていて、それぞれ独自の物語が紹介される群像劇の形式を採用していた。これにより他のアニメーションよりも物語に深みが増す。
→戦闘班、航海班、工場班、機関部、生活班などに所属する登場人物のキャラがたっている。


映画製作上の現在の課題

2007年に公開された一部の映画作品群
『ロッキー・ザ・ファイナル』、『スパイダーマン3』、『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』、『パッチギ! LOVE&PEACE』、『ダイ・ハード4.0』、「シュレック3』、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』、『オーシャンズ13』、『ラッシュアワー3』、『TAXi4』、『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』、『ボーン・アルティメイタム』、『バイオハザード3』、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』、『ナショナル・トレジャー リンカーン暗殺者の日記』・・・
映画製作上の現在の課題

2010年に公開された一部の映画作品群
『トイ・ストーリー3D 』、『交渉人 THE MOVIE』、『ライアーゲーム THE FINAL STAGE』、『時をかける少女』、『東のエデン 劇場版II』、『のだめカンタービレ 最終楽章後編』、『ウルフマン』、『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』、『劇場版TRICK霊能力者バトルロイヤル』、『セックス・アンド・ザ・シティ2』、『アイアンマン2』、『踊る大捜査線 THE MOVIE3』、『トイ・ストーリー3』、『ベスト・キッド』、『カラフル』、『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』・・・


オリジナルの新作作品の製作が少ない。
☆アニメーション映画の興行収入で上位を占めるのは、ジブリ作品以外はシリーズ作品(ドラえもん、ポケモン、コナン、クレヨンしんちゃん、エヴァなど)。他の作品は、ロボット、萌え、BL、学園もの、ファンタジー、伝奇などの特定の要素の組み合わせにすぎない。

→アイデアの枯渇。ベースになるストーリーを展開するだけで作品が製作できる。


先行するシリーズ作品のファンを取り込み、一定のヒットを期待できる。
→以前はシリーズ化された作品の興収は減少すると考えられていた。しかし80年代を契機にそうした流れが一掃される。

→海猿は最初からシリーズ化を計画していた。が、『LAST MESSAGE』と次回作はファンによる要望。

リメイク

リメイクとは?:
以前制作された映画作品を原作にして、
①出演者、スタッフを変更するだけで脚本やストーリーはあまり変更しない作品を制作する、
②基本的な枠組みや設定は同じして新しい脚本やストーリーを制作する場合がある。

製作者が現在の人にその作品の良さを広く広めたい、と考えた作品がリメイクされる。
→新しい作品のアイデアがでない
→ある程度の興収が予想できる

具体的なリメイクの方法(1)
映像や音響技術の進歩が進歩し、新しい技術を使ってリメイクする。(白黒→カラー、無声映画→トーキー、スタンダード画面→ワイド画面);「十戒」(1923→1956)、「知りすぎていた男」(1934→1955)、「椿三十郎」(1962→2007)
(特殊メイクを使ってよりリアルに表現する、CGやアニマトロニクスなどの特殊効果を利用して以前は表現できなかった映像の演出を行うなど);「ハムナプトラ」(1932→1999)、(「オーシャンズ11」(1960→2001)、「宇宙戦争」(1953→2005)、「日本沈没」(1973→2006)

具体的なリメイクの方法(2)
海外の作品を自国語でリメイクする。文化的に異なる部分を大幅に修正することが多い。以前は英語圏の作品を非英語圏の作品として製作される場合が多かったが、最近は日本の作品をアメリカでリメイクすることが増えた。
「七人の侍」(1954)→「荒野の七人」(1960)
「用心棒」(1961)→「荒野の用心棒」(1964)
「リング」(1998)→「ザ・リング」(2002)
「Shall We Dance?」(1996→2005)
「南極物語」(1983→2006)

具体的なリメイクの方法(3)
アニメーション映画の実写化。理由:
①観客へリアリティのある作品として提供するため(実写の方がアニメーションよりもリアリティが高い)、それに加え

→アニメーションでは描写できない微細な表情
→歴史考証、ロケ撮影、科学考証など

②アニメーションでしか実現できなかった映像を実現する
→映画表現の可能性を広げる

③アニメーションファン以外の観客を巻き込む
→人気のある俳優を配役することによって観客層を広げる
→アニメーションを観ない観客にアピールする


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映画の社会学2011第11講 批評的方法(4)作品の背景 [映画の社会学]

映画の社会学 第11講 批評的方法(4) 作品の背景

<課題作品>

『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』(1977年公開)

監督:舛田利雄
脚本:藤川桂介、山本暎一
音楽:宮川泰

『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』はテレビ放送板を再編集して公開されました。配給収入は9億円、観客動員数は225面2000人にものぼりました。1977年日本映画興行収入9位を記録し、最終的な興行収入は21億円でした。この映画公開後、テレビ放送板監督で、原作者の一人でもある松本零士の『銀河鉄道999』(1979)、『機動戦士ガンダム』(1981)などの劇場アニメーションが続いて公開され、アニメブームが生じ、今にいたります。その意味で『宇宙戦艦ヤマト』はアニメブームの火付け役と考えられています。

 『宇宙戦艦ヤマト テレビ放送版』
(1974年10月6日~1975年3月30日、26回)
日曜19時30分読売テレビ、裏番組『アルプスの少女ハイジ』
『猿の軍団』

企画・原案・製作:西崎義展
監督・設定デザイン:松本零士
構成:舛田利雄、西崎義展、山本暎一
音楽:宮川泰
メカニックデザイン:松本零士、スタジオぬえ
監修:山本暎一、舛田利雄、豊田有恒
演出:石黒昇
 テレビ局に提案する企画の段階では1年間という物語の設定に合わせて4クール1年間(51,52回)の放送が予定されていました。しかし実際に行われた放送局との交渉の中で3クール(39回)へ短縮されることになりました。
 実際に制作が始まると、いくつかの理由からさらに放送回数が26回へ短縮され実質的な打ち切りになりました。
1.西崎プロデューサーが会議魔で会議によって制作時間が不足したこと
2.裏番組に視聴者を奪われ視聴率が低迷したこと
3.予想以上の制作費の赤字(1本100万円)がでたこと

 つまり『宇宙戦艦ヤマト』の第1作目は企画者たちの意図が十分には表現されたわけではありません。彼らの思いは続編で表現されることになりました。

 視聴率は低迷したのですが、SFファンやアニメーションのうけは悪くありませんでした。制作やアテレコ現場にファンが押しかけるという状況は少なくなく、最後のアテレコは公開録音のような状況になりました。こうした動きは『海のトリトン』(1972年放送)からの動きであり、この作品に西崎プロデューサーは手塚治虫のマネージャーとして関与していた。
 西崎はテレビ版を再編集して海外に輸出しました。海外でこの作品は一定の評価を受け、その評価は日本に知らされます。こうした海外への輸出と同時に、ファンへ積極的に働きかけ、「ヤマトファンクラブ」が結成されました。こうした働きかけによってファンからの再放送へのリクエストが増え、再放送時の視聴率は20%をこえました。こうした動きは雑誌の特集へと結びつき、実際にはアニメーション雑誌創刊へとつながり、映画成功へと結実しました。

 『宇宙戦艦ヤマト』ではアニメーション映画史上初の徹夜組が登場しました。ファンを中心に始まったヤマトブームはやがてアニメーション全体のブームへと結びつきました。これまでブームの大部分は「送り手」(製作者)の仕掛けに消費者が乗っかかる形で形成されています。しかしアニメーションブームについてはそうではなく、消費者が自分趣向に従って行動することで形成された、初の「消費者主導のブーム」でした。


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映画の社会学2011第9,10講 批評的方法(3)原作と映画 [映画の社会学]

映画の社会学 第9,10講 批評的方法(3) 原作と映画

 『阪急電車』の続きです。映画では小説にはまったく書かれていないシーンがあります。時江が犬を飼うことを決めたきっかけになる出来事です。電車の中で時江の夫によく似た(俳優が同じなので顔は全くお泣く)男性と遭遇するというエピソードです。この男性、実は悦子の彼氏なのですが、その男性の顔や雰囲気にまつわる出来事が時江の夫とそっくりに描かれています。
 このシーンを追加した理由は、監督によれば、「時江自身も救われるべき」という意図だそうです。つまり監督の登場人物への愛ということでしょう。このほんの短い、そして物語自体には影響しない絵歩ソードが映画全体の雰囲気を盛り上げることにつながっているような気がします。

 映画の中には原作とは異なった場所が舞台として設定されている作品があります。たとえば『Little DJ』では横須賀(原作)から函館(映画)へ、『クローズド・ノート』では東京近郊から京都、奈良へ変更されています。
 こうした舞台の変更にはいくつかの理由があります。

1.映像化したときに舞台としてのイメージに合致する場所

2.FCによる誘致活動の成果

3.撮影の容易さ



<第2回リポートの案内>

課題:『手紙』の原作と映画の相違点について

映画と原作小説における2点の相違点について、相違点(変更点)が映画にもたらした効果や意義について論述してください。

1.主人公が漫才師
 →原作ではミュージシャン
2.相方は中学2年からの親友
 →小説では偶然出会ったバンドのメンバー

課題作品:

『手紙』(2006年11月公開)

監督:生野慈朗、脚本:安倍照雄、清水友佳子
原作:東野圭吾『手紙』文春文庫

提出期限:2011年12月8日(木曜日)授業開始時間

<リポートの注意事項>
小論文にすること。
感想文や作文にしないこと。
箇条書きやメモ書きの様式ではなく、文章で表現すること。
自分の主張に関する「根拠」を明確に論述すること。

字数:800字以上
リポート提出方法:MICCSあるいは電子メールを利用すること


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  • 発売日: 2006/10
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映画の社会学2011第8講 批評的方法(2)原作と映画 [映画の社会学]

映画の社会学 第8講 批評的方法(2) 原作と映画

 今回も課題作品は『阪急電車』です。

<構成の変更>

 映画では小説とは異なった構成になっています。小説では何の前触れもなく、宝塚駅で征志が電車に乗る物語本編から始まっています。しかし映画ではタイトルバック前に登場人物(翔子、時江、悦子、ミサ、康江、圭一、美帆、ショウコ)の紹介シーンがあります。
 メインの主人公が決まっていない、複数の登場人物を描いたドラマを群像劇と言います。こうした群像劇では、観客が登場人物について理解しやすいように、冒頭で登場人物の紹介を行うことがあります。映画やドラマのように顔を視覚的に認識しやすいメディアでは、小説のように文字だけで紹介されるよりも一挙に紹介した方が観客が登場人物を把握しやすいと考えられる。小説とは異なった手法で登場人物を認識させるということです。ちなみに最初の翔子以外の紹介シーンには小説に書かれていない部分が追加されています。これは登場人物のキャラの特徴を際立たせるためで、やはり観客への配慮が伺えます。

<構成を変更した他の映画の例>

『いま、会いにゆきます』(2004):
冒頭に息子佑司の18歳の誕生日のシーン、そして最後にヒロイン澪からみた物語が加えられています。一方、原作は全編主人公巧みの視点から書かれていました。

その他
→澪が子どものために絵本をつくる、佑司のために12年分のケーキが予約されるなどのエピソードを加えて、澪の愛が表現されています。

<時間軸を変更した映画作品>

 多くの小説が「過去→現在」という枠組みで物語が構成されています。それに対して『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)では、大枠としては現在が過去をサンドウィッチするように構成されていますが、実際には現在と過去の自生が「場所」によって交互に、交差的に描かれて、二つの時間の結びつきの強さが強調されています。この作品では「テープ」というアイテムによっても現在と過去が結ばれていました。

<追加されたシーン1>

タイトルバック前の紹介シーン:
   ショウコが小林駅横の小道で泣いている

中間の季節が変化することを示すシーンの直前:
   ショウコが「誰か助けて」とつぶやいている。康江がケーキバイキングに行っている。
往路甲東園駅付近の車内:
自分と同じ講義を受けている美帆に興味を持った圭一。美帆に避けられたとき「べつにこわないし」とつぶやく。

<シーンを追加する理由1>

映画は小説のように心情を表現することが困難です(ナレーションという方法はあるが不自然)。登場人物の正確を明確に表現するためにシーンを追加することがあります。

<追加されたシーン2>

往路逆瀬川付近の車内:
   時江が翔子の話を聞いて励ましているシーン。ミサが二人のやりとりをガン見している。遠くから康江もやりとりを気にする。

往路宝塚駅:
   時江が電車に乗り込むとうるさいおばさん集団がいる(その中に康江もいる)。

往路宝塚南口付近の車内:
   うるさいおばさんの一人に馬鹿にされる康江。康江は駅ホームに白いドレスの翔子を見つける。

関学前:
   悦子が彼氏にエスコートされながら圭一と美帆に話しかける。

復路甲東園:
   圭一と美帆が電車に乗り込むと悦子を見つけ、互いに挨拶。

<シーンを追加する理由2>

 映画のメッセージ(人と人との関わり合い、人はつながっている)を明確に表現するためにシーンを追加することがあります。この映画ではシーンだけでなく、原作にはないメッセージがナレーションという形で冒頭(タイトルバック前)にあります。

人はそれぞれ皆
いろんなやりきれない気持ちを抱えて生きている
死ぬほどつらいわけではないけれども
どうにもならない思いを抱えて生きている
そして、その気持ちは誰にも言えないのだ
誰かに言っても仕方がないことだと
あきらめるしかない
みんなそう思っている
自分自身で解決するしかないんだ
この世界にはこんなにも人がたくさんいるのに
同じ場所で同じ時間を生きている人がこんなにもいるのに
それは何の意味ももたない
名前も知らない人たちは私の人生に何の影響ももたらさないし
私の人生も誰にも何の影響も与えない
世界なんて、そうやって成り立っているんだ
そう思っていた
でも、

<セリフの追加>

往路仁川駅ホーム:
ミサがカツヤに突き飛ばされて怪我をした後のシーン。絆創膏をつける行動は映画で追加された(→時江の性格を強調するため)。「くだらない男ね。やめておいた方がいいわ」というセリフの後のセリフが映画で追加された。

「泣くのはいい。でも自分の意識で涙を止めら得る女になりなさい」
→孫に対してだけでなく、ミサに対しても発した言葉(?)

<セリフが追加された理由>

 他のシーンと共鳴して「女性の強さと連帯性」を強調するため。
→復路門戸厄神:ミサが康江を助けるシーン
→復路小林駅:翔子がショウコを助けるシーン
←中間部分:ショウコ「誰か助けて」
←「きれいな女は損をするようにできているのよ。私やあなたのようにね」
→復路逆瀬川~宝塚:時江の説教シーン

→復路小林駅:翔子とミサが意気投合

<原作よりも女性の元気さが強調される>

 征志とユキの物語を削除することによって主要な登場人物の中で男性は圭一一人になります。その唯一の男性である圭一が登場する部分は漫画的(お笑い的)に描くことによって他の登場人物とは区別しています。このように演出することによって物語のメインの登場人物は女性だけになりました。さらにシーンの追加、セリフの追加によって女性の強さや連帯性を強調することによって、女性の元気さが映画の一つのメッセージになります。ちなみに映画の公開の舞台挨拶は監督と女性出演者だけによって行われました。

<原作の設定を変更することの意味>

原作では描かれなかった新しい「効果」があります。
→原作よりもメッセージを明確にする。
→文字では表現できなかったメッセージを視聴覚のメッセージへ変換する。
→映画オリジナルのメッセージを加える。

映画では小説よりもアイテムを効果的に利用できます。





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映画の社会学2011第7講 批評的方法(1)原作と映画 [映画の社会学]

映画の社会学 第7講 批評的方法(1) 原作と映画

<批評的方法とは?>

 個々の作品を対象に研究します。メディア論的方法のように映画という物自体を総体的に扱うわけではありません。個々の作品を対象にするため、個々の作品内容(製作者のメッセージなど)、制作の手法、時代や社会の影響、原作との比較など。こうした視点に注意しながら一つの作品をじっくり取り組みます。

<映画の脚本>

 映画の元になるのは脚本です。脚本をもとに映画が制作されます。初期の映画作品の多くは映画用に書かれたオリジナルの脚本が使われました。しかしいくつかの理由から原作のある作品が制作されるようになります。映画の原作には次のような種類があります。

戯曲(演劇)
小説
マンガ
ゲーム
ドラマ
映画(リメイク・続編)


<原作を映画化する理由>

1.原作の内容を社会に紹介するため

 原作を知っている製作者が作品のすばらしさを広めるために大衆メディアとしての映画を利用するということ。

2.メディアミックスとして

 原作を含め、タイアップされた商品や作品全体の売り上げを伸ばすために映画を利用することがあります。特に出版業界の縮小には歯止めがききません。映画がヒットしてその影響で本の販売数が伸びれば一石二鳥になります。

3.売り上げが予想できる作品が制作できる

 原作の売り上げや人気からあらかじめ収入が予想できる作品を映画化することができます。1つの作品がヒットすれば映画産業全体の盛り上げにつながります。あらかじめ売り上げが予想できれば、制作費が回収できない映画を制作しないことが可能になります。

4.安定した作品を制作できる

 白紙の状態から内容を考え、脚本化すると内容が固まるまでに時間がかかり、全体の構成もぶれる場合があります。構成がしっかりした原作を使えば、構成がしっかりした映画を制作することができます。さらに出演者はあらかじめ作品全体のイメージをとらえ、役柄を考えやすくなります。ただし映画は作品として原作の世界観に制約されます。

<原作から映画化するポイント>

1.原作を忠実に再現

 小説(文学)を映画化する場合、最近は原作の世界観や雰囲気を可能な限り忠実に表現しようとする映画が多くなっています。ただしメディアによって演出に違いがあります。

2.原作の枠組みだけを利用する

 原作を特徴付けるような枠組みだけを利用して、ストーリーは原作とは異なった内容にする映画があります。たとえば「時をかける少女」は男2人女1人の関係、タイムリープという能力、過去の書き換えという枠組みが用いられて映画化されました。

3.登場人物のキャラだけを利用

 物語、構成、枠組みなどは独自につくり、キャラだけを利用する映画があります。その結果、別々の作品の登場人物を集めた新しい作品を創出することがあります。

<小説と映画のメディアとしての違い>

小説:文字を読み、読者が場面を頭の中で想像する
 →基本的に文字で情報を伝達
 →登場人物の心情を文字で表現
 →読者自身のペースで読める
 →わからないときは自分で内容を再確認できる

映画:観客の五感を刺激する
 →基本的に視聴覚に対して刺激する
 →映画の内容、設備によって臭覚や触覚も刺激する
 →登場人物の心情はセリフ、ナレーション、字幕、演技で表現

 小説と映画は全く異なるメディアです。同じストーリーでも異なった表現が必要になります。原作と映画は全く別の作品だと捉えるべきです。映画が原作とは異なったイメージなるから、原作と映画で異なる点があるというだけで、映画の善し悪しを判断していけないと言うことです。

<原作と映画の差異を分析する意義>

 たとえ原作に忠実に映画化する場合でも、映画化に際して原作の内容を変更する場合があります。その変更点には製作者の意図、意味、作品に込めるメッセージがあります。原作と映画は全く異なる作品であり、2つの比較して善し悪しを判断することに妥当性はありません。しかしその差異には映画の内容を理解するためのヒントがあります。

<代表的な変更ーカット>

 原作から映画化する時に行う代表的な変更は「カット」です。変更には多くの理由がありますが、その典型的な理由をあげたいと思います。

1.尺(時間)を短くするため
→映画の放映時間はある程度決められています。
→あまり長いとトイレ休憩を入れなければなりません。

2.コンテキストからその場面が削除されても意味が通じる場合
→小説と映画では内容の認識方法に差があります。

3.その場面がない方がストーリーの流れがスムーズおよび単純化されるとき
→映画では小説のように何度も繰り返して内容を確認することはできません。
→1回観ただけでストーリーを理解できるように制作しなければなりません。
→上記の理由は内容の変更にも当てはまります。

【課題作品】

『阪急電車 片道15分の奇跡』2011年4月公開

監督:三宅喜重(みやけよししげ)
脚本:岡田恵和(おかだよしかず)

<本作での最大のカット>
映画化に際して大きくカットされた場面:征志とユキの物語
→小説ではオープニングとエンディングに位置づけられた重要な物語です。ただ他のストーリーと比較すると物語としての独立性は高い部分になります。
 この部分をカットすることによって次のようなメリットがありました。

→上演時間が短くなる
→スピンオフを制作して映画の宣伝に利用できました。

 この部分をカットするために映画本編にもいくつか修正が加えられ、原作では十分表現できていなかった独自のメッセージが加えられました。



阪急電車 片道15分の奇跡 特別版 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: DVD



阪急電車 片道15分の奇跡 征志とユキの物語 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: DVD



阪急電車 (幻冬舎文庫)

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  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: 文庫



阪急電車 片道15分の奇跡 OFFICIAL FILM BOOK (TOKYO NEWS MOOK 226号)

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京ニュース通信社
  • 発売日: 2011/04/02
  • メディア: ムック



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映画の社会学2011第6講 産業としての映画 [映画の社会学]

映画の社会学 第6講 産業としての映画

<映画産業の構造>

映画産業は大きく「興行」、「配給」、「制作」の3つの部門に分けることができます。アメリカでも日本でも映画産業が盛んだった頃には3つの部門はメジャーと呼ばれる映画会社が独占していました。つまり映画会社が3つの部門すべてを行っていたということです。
 しかしアメリカでは産業の独占禁止のため、日本では3部門すべてに関係して経営できるほど経営が安定していなかったため、3つの部門にはそれぞれ別の企業(会社)が従事するようになりました。

興行
 映画館:映画興行会社
配給
 映画配給会社、映画宣伝会社
制作(製作)
 映像制作会社、プロダクション

<映画興行による収入と配分>

興行収入
 入場料金収入の総計
配給収入
 興行収入から興行にかかった費用を差し引いた収入(興収の50-70%)
配分金
 配給収入から宣伝費、配給手数料(15-50%)をのぞいた収入

→興収の配布分についてはすべて「契約」にも説いて行われます。これをみればわかるように、制作に直接関わる経費に対する収入はかなり少ない比率になります。

<製作部門>

・作品の企画、内容、スタッフ集め、キャスティング、撮影場所の確保、映画化権の取得など。
・制作資金調達、製作方式の確定(製作委員会方式、ファンド方式など)。
・Pre-Production:キャスト・スタッフ確定、ロケ地・スタジオ確保、予算調整、発表。
・Post-Production:編集、試写。

<配給部門>

・権利獲得:劇場上映権、配給権の獲得、興行後収入などについての契約。
・配給計画:公開規模、時期、宣伝予算、収支の策定など。
・劇場確保:劇場のブッキング(フリーブッキング方式、ブロックブッキング方式)。
・宣伝広告:様々な方式での宣伝の企画・実施(予告、ポスター、前売り、完成試写など)。
・その他:日本語吹き替え、字幕製作、映倫審査など。

<興行部門>

映画館での上映:
大手映画会社のチェーン系(東宝、松竹など)、単館系・ミニシアター系(個人や中小興行会社の経営:角川、日活など)、シネコン系(ワーナー、TOHOなど)

興行会社の実務業務:
入場チケットの販売・もぎり、場内の管理、クレーム処理、関連商品の販売、飲食物の販売、映写など

<制作費のリスク管理>

 興行部門は観客が減少することによって興収が減少するのを、入場料の値上げによってカバーしてきました。その結果、観客数は減少し続けましたが、興行収入は増加するという現象が生じています。しかしながら日本映画は国内での興行が中心で、ハリウッド映画のように全世界を対象にしているわけではありません。だからたとえ興収が確保できたとしてもハリウッド映画と比較して、その額は小さく、制作費が確保できない可能性があります。そうした制作費が確保できないリスクヘッジに対処するため2つの方式が考えられました。

・製作委員会方式
・ファンド方式

 製作委員会方式が初めに導入されたのはアニメーション映画の世界です。そして日本ではこの製作委員会方式が映画製作の中心になっています。

<製作委員会方式>

 製作委員会方式は複数の企業が参加して制作費を出資し合う方式です。この方式では「著作権」を共有し、配分金を配分、興行後収入の配分を行います。このようにして制作費が確保できない場合のリスクを分散します。

 製作委員会方式にはいくつかのメリットがあります。

1.多様な広告媒体の確保
→出版社、テレビ局、IT関連企業の参加
→広告会社の加入

製作委員会に広告媒体になる企業が参加していると宣伝しやすくなります。

2.メディアミックスの容易化
→関連商品の開発と販売
→ライセンス関連事業の展開

映画は本来映画というコンテンツだけを取り扱っていた。しかし1970年頃からコンテンツに関連する商品も開発され、その商品も広告媒体となってコンテンツと一緒に売り上げに貢献することになりました。こうした商品開発・製造・販売に関わるライセンス事業やグッズ開発には複数の企業が関係します。製作委員会にそうした企業が参加していれば、映画以外の商品とからんだメディアミックスが容易に実現します。

3.コンテンツ二次利用の容易化
→複数企業が参加することでコンテンツの二次利用が容易になります。

これについては後述します。

<映画ファンド方式>

 制作会社が制作費の50-75%を確保できれば、残金はファンド(投資信託)から出資されるという方式です。つまり投資家が資金を映画に投資するという方式。
 収益配分:全収入のうち15%を配給手数料として制作会社が受け取り、残りは出資比率と契約比率によって配分されます。ローリスク・ハイリターンの可能性があります。
 この方式はハリウッド映画では一般的な方式で、ハリウッド映画(アメリカ映画業界)には興収が少ない場合に、制作費を保証する保険もあります。

 日本でも映画ファンドによって制作された作品があります。
ジャパン・デジタル・コンテツ信託株式会社による作品:
 シネカノン制作『フラガール』(2006)
        『パッチギ!LOVE&PEACE』(2007)
→JDC信託は2009年に破綻しました。

日本映画ファンド株式会社
 『着信アリ2』(2004)
 『戦国自衛隊1549』(2005)

*映画ファンドによるヒット作品はいくつかあるのですが、ハリウッド映画ほどには定着しません。

<コンテンツの二次利用>

 現在法律では映画に次のような13の権利が設定されています。

劇場上演権
非劇場上映権
公共ビデオ権
ホームビデオ権
商業ビデオ権
地上波放送権
CATV権
衛星放送権
PPV権
VOD権
IP放送権
CCTV権
付随的権利

映画ビジネスは、権利を販売して収益を得る権利ビジネスなのです。

 1980年代までは、映画産業では映画が映画館で上映され、興行収入が確定した時点で、その映画に関わる業務(収益)は完了すると考えられてきました。この時代には映画ビジネスは興収がすべてだったのです。
 しかしテレビの普及、ビデオの一般化などにより自宅で映画を鑑賞するということが一般化しました。このような映画鑑賞についてのライフスタイルの変化が映画ビジネスのあり方自体を変えるようになりました。
 現在では映画館での興行終了後にコンテンツを利用するというコンテンツの二次利用が、製作段階から計画されるようになっています。これは企画立案の内容に広がりが生じているということと同時に、テレビ放送局を中心とした製作体制にシフトしていることを示しています。

 映画コンテンツは次のようなウィンドウで利用されます。

劇場公開
 ↓
パッケージ販売
 ↓
テレビ放送
 ↓
ネット配信

そして次ような形でタイアップしています。

小説・マンガ化
グッズ販売
ゲーム化

 現在映画ビジネスでは劇場での公開以外のウィンドウでの売り上げ増加を目指したコンテンツが作成されています。たとえば映画撮影と同時進行でメイキング映像が撮影され、出演者へのインタビューなどが行われ、それが特別映像としてDVDやブルーレイなどのパッケージに盛り込まれます。レンタルショップでの売り上げと同時に一般視聴者へのパッケージ販売は着実に伸ばしています。

<映画撮影による経済効果>

 映画産業(映画ビジネス)は映画というコンテンツに関連する権利ビジネスです。端的に言えばコンテンツを販売することで産業が成り立っています。しかし映画産業の経済効果は映画業界だけでは完結しません。すでに述べたように映画は舞台作品のように舞台という場所に限定されず、カメラさえあればどこでも撮影できます。ロケーション撮影によって撮影地という地域を中心に様々な経済効果が生まれます。その一つはFC(Film Commission)です。

<ロケ撮影>

 ロケ撮影は出演者が現地の雰囲気を『肌で感じ』、リアリティのある演技につながる。しかし天候に左右されて撮影期間が延びる、ロケ地までの移動に時間や経費がかかるなどのデメリットもあります。

 ロケ撮影では次のようなことが必要になります。
・撮影許可が必要
・宿泊場所の確保、食料の調達
・エキストラの確保
・ロケハン(ロケーション・ハンティング)の時間

<FCの機能>

 FCは撮影隊に必要なさまざまなサービスを提供します。サービスの内容はFCによって異なりますが、おおよそ次のようなことです。

・ロケ地の紹介(ロケハンを代わりに実施する)
・許可・届出手続きのOne Stop Service→窓口の一元化
・ロケ撮影に伴う多様な支援
・宿泊場所の確保
・食事の確保
・エキストラの確保
・移動手段の確保

<映画誘致のメリット>

 映画の撮影隊を地域に誘致するメリットはおおよそ次のようにまとめられます。

・撮影隊が地域にお金を落とす(直接的経済効果)
 →宿泊や食事、ロケ地内の移動など
・地域の良さをPRするチャンネルになる。
・観光客増加による観光地効果(間接的経済効果)。
・映像作り=まちづくり(地域文化の創造や向上)
 →ソフトパワーの強化(ソフトの力によって他地域に影響力をもつ)

<FCの発祥>

 ユタ州モアド・ユコン商工会議所のチャーリー・ホワイトが1940年代にFC活動を開始し、西部劇の撮影に利用されました。この事業の成功をみたコロラド州キャロル・スミスもコロラド州でFC活動を開始。1969年に州政府がスポンサーになってFCが設立しました。

 こうしてFC活動がアメリカ全土に広がり、1975年AFCI(Association of Film Commissioners International、国際フィルムコミッショナーズ協会)が設立されました。

<日本のFC活動>

 2000年2月大阪ロケーション・サービス協議会(大阪商工会議所内)が設立されました。これが日本で最初のFC活動です。大阪での活動が全国に展開され、2001年8月全国フィルム・コミッション連絡協議会が設立され、2008年9月には101の団体が加盟しています。2009年にこの団体はジャパン・フィルム・コミッションへ発展的に解消しました。

http://www.japanfc.org/

本日締め切りのリポートですが、数名の人が分量制限を守ったおられませんでした。その方々は残念ながらF評価になります。
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映画の社会学2011第4,5講 メディア論的方法(3) [映画の社会学]

映画の社会学 第4,5講 メディア論的方法(3)
他の媒体と映画の比較
リポート1

 映画の原点はアニメーションです。映画産業の画期的な戦略の大部分はアニメーション製作現場から行われています。
 すでに述べたようにCG技術の進歩によってアニメーションで表現される作品はすべて実写映画でも表現できるようになりました。従って、

アニメーションでしか表現できないことは何か
アニメーションで表現するメリットは何か
実写映画で表現する意味は何か

それぞれの表現方法を選択した意義をもたなければなりません。そうでなければ観客に対して説得力のある作品を制作できないでしょう。それを踏まえてリポート課題を設定しました。

【第1回リポートの案内】

課題:
「BALLADを通してアニメーションを実写化する意義について考察する」

期限:2011年10月27日(木曜日)授業開始時間


<注意事項>

小論文にすること。
感想文や作文ではない。

箇条書きやメモ書きの様式ではなく、文章で表現すること。

自分の主張に関する「根拠」を明確に論述すること。

分量:800字以上

<リポート提出について>

MICCSあるいは電子メールで提出すること。

電子メールで提出する場合は「受理確認メール」を確認すること。

ケータイメールからのリポート提出を許可。


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映画の社会学2011第3講 メディア論的方法(2) [映画の社会学]

映画の社会学 第3講 メディア論的方法(2)
他の媒体と映画の比較

【小説の表現方法】

 小説は原則として文字(言葉)で表現します。現象を文字(言葉)で表現するだけでなく、登場人物の「心の声」も言葉で表現されます。小説の特徴としては文字以外に描写の手段がないからです。読者は書かれた言葉を読んで、どういう風景なのか、何が生じているのかを想像するしかありません。

小説は「言葉の表現がすべて」です。

 たとえばあさのあつこの『バッテリー』という小説では次のように表現されます。

「(やっと本気になったな)
 豪は、山なりのボールを巧みにかえした。
 返球を受ける。そして、
 やっと本気になったな。
 巧は、胸の内でつぶやいた。
 まったく大人ってのは、せわがやける。ため息が出そうだった。稲村たちは、ずっと豪とのキャッチボールを見ていたのだ。本気にならなければ打てない球だとわからなかったのだろうか。鈍い。腹が立つほど鈍い。
 もし、巧が大人だったら、稲村は一球目から本気でバットを握っただろう。あるいは、とても打てないと断ったかもしれない。どちらにしても、遊び半分で、打とうとは思わなかったはずだ。
 あらためて稲村の顔を見た。さっきまでの笑いが、消えていた。構えも違う。小太りの身体が、少しひきしまった。力が漲る。
 そうだ、本気になれよ。本気で向かってこい。子どもだとか小学生だとか中学生だとか、関係ないこと全部すてて、おれの球だけを見てろよ。」

【漫画の表現方法】

 漫画では大きく文字(セリフ)での表現と絵での表現の2種類がある。

<文字で表現>
 基本的に漫画での文字表現は吹き出しに書かれたセリフで行われます。この吹き出しに書かれたセリフは声に出された言葉です。海外の漫画のほとんどがセリフは吹き出しに挿入されています。日本漫画では、吹き出しのないセリフが使われる場合があります。特に少女漫画では吹き出しのないセリフによって登場人物の心の声が表現されます。ナレーションも吹き出しのないセリフによって表現されることがあります。

<絵で表現>
 登場人物の感情をキャラの表現、記号、背景などで表現されます。

 こうして漫画では文字と絵の2種類を組み合わせて、情景描写、心情表現が行われます。

【ラジオの表現方法】

 ラジオは視覚にうったえるメディアではありません。ラジオは聴覚媒体です。従って、次のような表現方法が用いられます。

・声の調子(音の高さ、強さ、ふるえ、息のまぜ具合、鼻音のバランスなど)
・効果音(雨音、風音、騒音など)
・音楽
→音楽はセリフ以上に人間の心の声を明確に表現します。

【アニメーションにおける声優の表現】

 ラジオドラマは「聴く」要素だけで「観る」要素がありません。それに対してアニメーションは「聴く」要素も「観る」要素もあります。だから声優は同じように声だけを出していますが、表現に違いが見られます。
 ラジオドラマでは声だけですべての表現をしなければなりません。しかしアニメーションは声だけでなく、むしろ視覚表現の補助的役割になることがあります。そしてアニメーションの場合、絵と矛盾しない表現が必要です。

【映画での表現】

<ナレーション>
 ナレーションは画面の画像によってではなく、画面の外で行われる音声です。これはセリフにはならない音声で、登場人物の心情が表現されたり、画面に映された状況を登場人物が紹介する場合に用いられます。

<文字>
 音声ではなく文字で登場人物の心情が表現される場合があります。メール、チャットなどが一般的になってからはPCや携帯電話の画面に文字を写しだして表現するようになっています。メールやチャットで文字を利用するのは物語の進行の上で必然性があります。しかしそうした必然性はなく、画面に字幕(テロップ)を使って登場人物の心情や状況を表現する場合もあります。
→言葉を視覚的に表現するということです。

<独白>
 ナレーションのように声にならないセリフではなく、きちんと声に出しているのに、誰かに語りかけてはいないセリフを独白と言います。独白もナレーションと同じようにそのときの登場人物の心情や状況を説明する内容になります。
 たいてい独白は誰もいない場所で行われるか、まわりに誰かがいたとしても独白の内容が無視されます。

<アイテム>
 本人以外の人物やアイテムによって登場人物の心情が表現される場合があります。たとえば他の登場人物に心情を語らせたり、代役をさせたりします。手紙やテープというのは登場人物の心情を直接表現するのに有効なアイテムです。心情を人格化して表現する場合もあります。

<画面の色>
 想い出、過去の出来事などを表現する場合には、カラーではなく白黒やセピア色で表現します。

<演技>
 普通は登場人物の表情や行動、しぐさなどの演技によって登場人物の心情が表現されます。これは日常生活で行われていることと同じです。私たちも行動やしぐさ、態度あるいは声の調子によって相手の心情を読み取ります。

<画面上の表現>

フレーム(構図)での表現
→客観的視点ー主観的視点
→人物の配置、ものの配置
→役者の立ち位置
→アングル

カメラの撮影方法
カメラの移動ーカメラの固定
→カメラの動きによって登場人物の心情が表現されます。



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映画の社会学2011第2講 メディア論的方法(1) [映画の社会学]

映画の社会学 第2講 メディア論的方法(1)
映画と演劇の比較

題材:
原作:三浦しをん『風が強く吹いている』(新潮社)

舞台:2009年初演
   鈴木裕美演出、鈴木哲也脚本
   アトエリ・ダンカン、イープラス企画・製作

映画:2009年公開
   大森寿美男脚本・監督

【観客から見る演劇の特徴】

・臨場感
 ・現場性
 ・一回性
 ・相互性
・共有感(共犯性?)
・共振性
・時間的限定性
・高価格性

<臨場感ー現場性>

 演劇ではたとえば強盗が目の前で生じているように、観客の目の前で物語が進行します。それは誰かから話を聞いたことでもなく、過去に生じた出来事でもありません。自分自身が直接体験していることです。演技者の演技を目の前で「生」で見聞きし、感じています。それはその現場にいるという感覚で、いわゆる「ライブ感」です。コンサートをテレビではなく、会場でみているのと同じような感覚でしょう。

<臨場感ー一回性>

 歴史上の事件が1回だけの出来事であるのと同様に、その時その場で見聞きする舞台はそのとき1回きりの出来事です。二度と同じ事は生じません。つまり再現性がないということです。同じ舞台で、同じセリフで、同じ相手に舞台が行われているので、毎回同じ内容になっていると一般的には考えられます。しかし実際には公演日の天候、公演時間、演技者の体調、劇場の「雰囲気」、その人の演技者のやりとりなどによって舞台の内容が変化します。人間がやることなので、同じ舞台でも再現性はありません。

<臨場感ー相互性>

 舞台は舞台の上に立っている役者によってつくられます。しかし実はその日の舞台は舞台の上の演技者だけによってつくられているわけではありません。舞台はそこで演じている演技者とそれを観ている観客との相互作用によって作られる、という側面があります。
 たとえば観客が無反応であった場合、演技者はきちんと演技できない場合があります。『8時だよ。全員集合!」は舞台の上から観客に向かって声をかけています。もし観客が無反応であったら、おそらく話を先にすすめることができません。あの番組ではいかに観客を舞台に巻き込んでいくか、が重要になります。そして舞台の演技者と観客とが一緒になって舞台を作り上げていくのです。

<共有感>

 演劇には特有のルールやお約束があります。劇団特有のルールがある場合もあります。観客の多くはそのことを出演者と共有することによって、より深く演劇を楽しむことが出来ます。
 この共有感は舞台の特徴である一回性とも関係しています。観客と演技者がつくる雰囲気はその場でしか形成されません。

<共振性>

 舞台の雰囲気は観客と演技者との相互作用だけでなく、その場の雰囲気を共有した観客同士でも形成されます。その場にいる観客同士の感情が共振して、舞台の雰囲気が作られるのです。

<時間的限定性>

 映画の場合、公開期間中は毎日何回も放映されています。シネマコンプレックス形式の劇場では、複数の映画が同時に上映されます。観客はある程度自分の時間的な都合に合わせて、自分の好きな映画を鑑賞できます。
 演劇の場合、公演の日時が映画よりも限定的で、人気のある劇団では自分の都合にあわせて演劇を鑑賞することができない場合があります。つまり演劇鑑賞にはそれなりに鑑賞したいという意欲が必要だということです。

<高価格性>

 現時点では劇場の入場料金と演劇の鑑賞料金(入場料金)を比較した場合、座席によって差はありますが、演劇の鑑賞料金の方がはるかに高額になっています。一般に人は高額なものほど大切に扱いますが、同じことが鑑賞料金にもいえます。鑑賞料金の高い演劇の方が料金を支払った観客は集中して鑑賞します。特に自分で料金を支払った場合は、多少退屈な場面があっても必死になって鑑賞しようとします。



【映画は演劇の特徴を継承したのか?】

 映画は演劇にかわる娯楽として一般庶民に普及しました。それでも映画は演劇の特徴を継承したのでしょうか? 演劇と映画を比較した時、映画独自のメディアとしての特徴が現れます。

<継承したものー共振性>

 演劇と同様に映画館で上映される映画でも観客同士の共振性は存在します。ホラー映画やいわゆる泣ける映画では、恐怖が共振したり、悲しみが共振したりします。
 劇場での感情がうまく共振して大きな感動を生むことがあれば、作品への評価が高まります。その結果、リピーターが増加したり、その観客が別の観客への広告塔になる可能性があります。テレビでのCMではこうした効果をねらった映像が利用されるようです。

<継承しないことー共有感>

 観客同士の共振性はありますが、観客と演技者との共有感はありません。映画は観客に対する一方通行的なメディアだからです。ただし観客が一方的に出演者に対して共有感を持つことはあります。これはファン心情といってもいいでしょうし、あこがれの感情と言ってもいいかもしれません。観客が演技者に対して共有感を抱いた場合には、出演者と同じような行動や態度をとる場合があります。

<継承できないことー相互性>

 映画はいわば録画したものを再生しているだけで、事件が目の前で起こっているというような「臨場感」はありません。特に相互性はありません。もし映画の出演者と観客が映画を通して相互に影響し合って変化したら、それはファンタジーです。映画の前で観客が反応してもそれに対して映画の中の出演者の演技が変わることはありません。映画撮影中も出演者は観客の反応を確かめることは不可能です。

<継承できないことー一回性>

 映画は再現性が高いメディアです。何回目観ても、同じ演技、同じ内容です。状況によって内容が変わることはありません。ただし鑑賞する時の観客の心情によって、映画から受けるメッセージが変わることはあります。

<継承できないことー現場性>

 観客の目の前で物語が進行するわけではないため、現場性はありません。そのまで自分が経験しているようなリアリティもありません。しかし映画は演劇のように「舞台」という場所に限定されません。そのために演劇とは異なった「リアリティ」や「ライブ感」を生み出すことが可能です。

<映画的リアリティの創造>

 演劇は舞台でしか演技できません。しかし映画は舞台ではなく、私たちが生活している、私たちの「現場」を舞台にして撮影することができます。いわゆるロケーション撮影です。ロケ撮影では、舞台のように狭い空間ではなく、広い空間を利用することができます。自分たちの生活の場で撮影されるのですから、その現場を知っている観客には強い親近感が感じられます。このようにして映画では演劇とは異なった映画独特のリアリティが創造されます。
 演劇では観客がそれが何かがわかればいいので、舞台にきちんとしたセットを組む必要はなく、絵でもかまいません。しかし映画ではそうした背景が使われることはまれです。映画は演劇とは異なった臨場感が必要だということです。
 そういう視点から考えると、映画では「見せる」演出が重要で、演劇では「聞かせる」演出が重要になるということがわかります。

 映画ではロケ撮影という手法によって臨場感やリアリティを創造するのですが、ロケ撮影は欠点の多い手法です。一番大きな問題は天候です。天候によっては撮影ができません。あるいは思ったような光や影ができないこともあります。このほか、撮影地によっては移動に時間がかかり、場合によっては宿泊も必要になります。出演者、スタッフが多い場合には、交通費や宿泊費、食費などでかなり費用がかかります。
 こうした欠点のないのがセット撮影です。セットだけでは天候は表現できませんが、CGを組み合わせれば想像通りの背景が表現できます。極端に言えばCGがあればセットはほとんど必要ありません。
 CG技術の進歩によってそれまでは実写映画は不可能といわれていた様々なファンタジー作品が映画化されるようになりました。あるいはアニメーションによってでしか表現できなかった作品もすべて実写化できるようになっています。


<演劇とは異なる映画による観客へのアプローチ>

 演劇では舞台全体で演技が行われることがあります。その場合、観客はどこを観たらいいのかよくわかりません。しかし映画では注目させたい部分を「見せる」ことができます。これは映画というメディアの大切な特徴です。だから映画では「画面構成」、映画のフレームのどこに何を配置するのかが重要です。多くの監督が絵コンテを描くのはそのためです。

 映画は演技者の体力に関係なく、何度でも同じ作品が上映されます。さらに演技者の年齢、天候、時代の変化など全く無関係に作品されます。演劇だと演技者は時間の経過とともに年齢が高くなって、演技の内容が変わっていきます。さらに機材さえあれば、どこでも上映できるという偏在性があります。とはいえ、テレビやビデオ、DVDといった媒体が登場するまでは、フィルムがなければ上映できず、上映のためには専門の機材操作者が必要でした。現在では、ビデオやDVDによって家庭で、あるいは車内で誰でも上映できるようになっています。それだけ再現性と偏在性がたかまったということです。

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