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2010映画の社会学第9講 批評的方法(4) [映画の社会学]

映画の社会学 第9講 批評的方法(4)
批評的方法のポイント

 今回は批評的方法によって映画分析を行う時の「批評のポイント」について紹介したいと思います。すでに述べたように批評的方法は対象となる一つの作品をじっくりと鑑賞し、その対象作品について独自の批評を行います。その意味では批評の内容は個々の作品によって別々の批評になります。しかし批評に際してはいくつの共通するポイントがあるので、今回はそのポイントについて説明したいと思います。映画を批評的方法によって分析する時には、ここで紹介するポイントをきっかけにしていただきたいと思います。

 一般に映画にはタイトルを表示するタイトルバックと呼ばれるシーンとオープニングと呼ばれるシーンがあります。

 少し一般的なオープニングよりも短いですが、行定勲監督の『クローズド・ノート』のオープニングを観てみましょう。

 一般的なオープニングが「タイトルの表示」、「メインキャストの名前」(ときには監督の名前)などが独自の映像の上に重ねて表示されます。オープニングの長さは監督によって異なりますが、一般的に次のような効果があるようです。オープニングは「これから映画が始まるぞ~」というわくわく感を感じさせる「部分」(時間)。エンディングと合わせて「始まり」と「終わり」を明確に示す「フレーム」の役割を担っています。

 さてこのオープニングですが、本当に映画に必要な宇部分なのでしょうか。

 オープニングの重要性については監督によって考え方が異なります。また作品によっては重要性がかわります。まずは次の作品のオープニングを観てみましょう。

ジェイ・ラッセル監督の『マイ・ドッグ・スキップ』(2000)
出演:フランキー・ミューニース、ケビン・ベーコン、ダイアン・レイン

この監督の他の作品:
『ウォーター・ホース』(2007)
『炎のメモリアル』(2004)

 ジェイ・ラッセル監督はオープニングには一定の役割があると考えています。この作品ではジェイ・ラッセル監督は、オープニングを本編の予告だと考えています。だからこの作品のオープニングには主人公に関係するアイテムや風景、主人公の部屋が映されます。こうして本編の雰囲気を事前に観客に示し、緩やかに映画の世界へ導入していきます。

 次に矢口史靖(やぐちしのぶ)監督の『ハッピーフライト』(2008)を観てみたいと思います。

出演:田辺誠二、時任三郎、綾瀬はるか

 この作品ではオープニングは本編の一部だと考えられています。だから本編に至るプロセス(予告を含む)、本編の導入部分が映し出されます。そして1つのシーンが終わったところでタイトルバックとなります。このような構成では一応、オープニングが重要だとは考えられているのですが、一般的な手法とは異なった効果があります。この手法の効果については次の手法と同じになるので次の手法について説明しましょう。


 それでは最後のパターンを紹介しましょう。まずは二つの作品を鑑賞します。ジェームス・キャメロン監督の『アバター』と行定勲監督の『世界の中心で、愛をさけぶ』です。
 ジェームス・キャメロン監督はオープニングを重要だとは考えていません。だからオープニングをなくしていきなり映画本編が始まっています。行定勲監督もこの作品では一応、タイトルバックは表示しますが、いわゆるオープニングはありません。こうした手法は『Scream』などのホラー映画ではよく用いられる構成です。

 オープニングをなくすことによってどのような効果が得られるのでしょうか。
 一つには映画全体の時間が短くなるという効果があります。1960年代のアメリカ映画をみればわかるのですが、この時代の映画はオープニングが5分近くありました。エンディングに流されるエンドロールとほぼ同じ内容がオープニングでも映されるからです。この時間が非常に長いです。

 二つ目の効果は、観客に予定な待機状態を与えないで、いきなり映画の世界観に引きづり込むことができるということです。これは現在では映画よりもテレビで効果的な手法です。最初に観客の興味を引かないと、チャンネルを変えられてしまいます。映画でも最初から気を引いて逃れられなくしないと、退出されるかもしれません。

 最後に観客を驚かせる効果があります。これは2番目の効果と同じですが、単に引きづり込む、というよりはやはりインパクトを与えたい場合に使われます。

【OPをみると・・・】
 OPは観客が一番最初に観るシーンです。この最初のシーンをどのように表現するか、ということで映画の中の雰囲気、監督の考え方、映画制作に対する意気込みが読み取れます。

 だから映画の最初の場面でうだうだ話をしていると、監督の意図を受け止められません。最初の部分から映画の分析は始まっているのです。


【映画の構成】

 では次に映画の構成について考えてみましょう。特にここでは時間構成について、過去の描き方について考えてみたいと思います。

 映画のでは過去の出来事をどのように表現するのでしょうか。一般的には過去の物語は過去の出来事として描かれます。このように描くと、実話であろうとフィクションであろうと、「歴史的な出来事」として表現されます。さて歴史的な出来事とは。普通、自分とはあまり関係がない出来事として受け取られます。自分とは関係がないことですから、少し客観的な対象となります。
 客観的というのは、それがたとえ実話であっても自分とは距離感がある出来事として受け取られるということです。

『ラストサムライ』(2003)、『遙かなる大地へ』(1992)などをみるとそういう感じがします。


 過去の物語を現在に生きる人の回想として描く場合があります。
 この場合、観客は目の前で語る人が体験してきたこととして過去の出来事を観ることになります。多くの人が同じようなことを語る、客観的な話ではなく、個人の「語り」という形式です。この構成だと、たんに過去の出来事を描くよりも「リアリティ」が感じられます。もちろん回想といってもいろいろな描き方があります。
 『マイ・ドッグ・スキップ』では一人の男性の過去が描かれるのですが、その男性の「ナレーション」という形式で描かれています。また少年の体験を描いた作品として秀逸な『スタンド・バイ・ミー』(1986)では、回想する主人公が、自分の体験を小説として描いている、という形式でした。
 こうした表現でも十分に「リアリティ」を感じさせるのですが、それ以上にユニークな表現方法は『タイタニック』で用いられた形式です。

 『タイタニック』ではおばあさんがリビングの暖炉の前で、孫たちに話をするように、沈没の体験を若者たちに話しています。この方が「リアリティ」だけでなく、「親しみ」も感じさせます。

 行定勲監督『世界の中心で、愛をさけぶ』では、もっとユニークな手法で過去を描き出しました。

 『世界の中心で、愛をさけぶ』では「アイテム」によって現在と過去が結びつけられました。この作品では発売当初から若者たちの生活に密接に関係したアイテム、ソニーのWALKMANとテープが使われました。このアイテムは原作には登場しません。テープに吹き込まれた声は誰かに作られたものではありません。過去を忠実に描く「証拠」です。登場人物の「記憶」でもありません。このように客観的な証拠を用いて、しかも個人の体験を描き出しました。
 アイテムを有効に利用すれば、現在と過去をシームレスに接続することができます。では次にいくつかのアイテムについて考えてみましょう。


【アイテムの利用】

 小説では描き入れない表現を映画ではアイテムを使って描くことができます。たとえば『クローズド・ノート』のラストシーン。

 『クローズド・ノート』のラストシーンでは、原作には登場しない「紙飛行機」というアイテムが登場しました。実はこのアイテム、オープニングにも登場しています。
 紙飛行機というアイテムを使うことによって登場人物たちが感じている「自由」や「解放」という感情が演出されます。同時に観客には一つの物語が「完結した」感じが与えられます。


 このようにアイテムによって言葉や文字では表現できない「感情」を演出することができます。たとえば次の作品でもアイテムが感情表現に利用されています。

『いま、会いにゆきます』(2004)
高校卒業時にタクミからミオに渡されたボールペン。原作ではさほどウエイトが置かれていなかったが、映画では特別なアイテムとして利用された。ペン:人が日常的に使っているモノ

『Little DJ 小さな恋の物語』(2007)
父親からもらったレコードを主人公が床に投げつける。
→少年の気持ちを表現するためのアイテム


【登場人物の設定】

 映画では原作にはない登場人物を新たに加えたり、原作とは異なった設定に変更する場合があります。これはその映画をどのような作品に仕上げたいのか、あるいは対象となる観客は誰なのか、あるいは商業的な目的は何なのか、などという要素と関係しています。

 たとえば西谷弘監督の『県庁の星』(2006)では、原作では中年であった女性が映画では若い女性(柴咲コウ)に変更されました。これによって

→店は若いパートタイム女性によって支えられる
 (ベテラン社員のなさけさなの演出)
→主人公(織田裕二)との「恋」が表現される
 (いわゆるデートムービーとなる。観客の幅が広がる)

という効果が見込まれるからです。


 あるいは現在公開中の『Space Battleship ヤマト』では、二人の登場人物の設定が変更されています。一人は佐渡先生、もう一人は森雪です。これも変更することによってさまざまな演出効果があります。


 現在はあまり意図的に製作されていないジャンルですが・・・アイドルを売り出すために製作される「アイドル映画」というジャンルがあります

『時をかける少女』(1983)、『ねらわれた学園』(1981)、『セーラー服と機関銃』(1981)といった角川映画はその典型です。こうした作品では、

→アイドルの魅力が引き立つような演出
→出演者の演技はあまり問題にされない

という特徴があります。ご覧になればわかりますが、下手でべたな演技がそのまま採用されています。むろんこの演出は監督によって違います。個人的には・・・。
 1970年代から80年代はアイドル全盛時代でした。テレビには連日新しいアイドルが登場し、さまざまなプロダクションが所属のアイドルをどのように売り出すのか、さまざまな手段が試されました。アイドル映画もその一つです。このように各国でアイドル映画が製作されていました。

 さて今回は特にいくつかのポイントに絞って紹介しました。しかし批評的方法はこれだけではありません。自分なりに作品をみて分析してみてください。ただし一番大切なことは、その作品自体から考えるということ、それからその作品の背景にある社会的な影響について考えてみることです。これは実践してみなければよくわからないので、どんどんトライしましょう。


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