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社会学入門2011 第6講 地位と役割(2) [社会学入門]

社会学入門2011 第6講 地位と役割(2)

今回の教材

LISMOドラマ「阪急電車-征志とユキの物語」
監督:宮崎暁夫、監督監修:三宅喜重
脚本:渡辺千穂
制作:KDDI、関西テレビ
原作:有川浩、2008、『阪急電車』幻冬舎

 この作品は映画『阪急電車-片道15分の奇跡』のスピンオフで監督、脚本家が異なる。かなり原作に忠実な作品になっており、台詞はほぼ原作と同じだった。このストーリーをスピンオフとして映画本編からはずしたため、映画本編は女性を軸にしたスッキリしたストーリーになっていた。

 まずはオープニングから。

「電車に一人で乗っている人は、大抵無表情でぼんやりしている。視線は外の景色か吊り広告、あるいは車内だとしても何とはなしに他人と目の合うのを避けて視線をさまよわせているものだ。そうでなければ車内の暇つぶしの定番の読書か音楽か携帯か。」(有川浩『阪急電車』2008:8)

 これは電車内の乗客の様子を描写したものである。ここでの乗客の態度は何を意味しているのか。まずは電車内で迷惑だと言われる行為について考えてみたい。

 日本民営鉄道教会HPに「電車内での迷惑行為ランキング」掲載されていた。これによれば2009年のランキング1位は「電車内で騒ぐ」でありこの行為は2006年頃から急激にランキングをあげている。第2位は「ヘッドホンの音」でこれも2007年から急激にあがってきた。第3位は「座席の座り方」でこれは2008年は1位であったがランキングを下げた。第4位は「携帯電話の使用」であるが、これも「座席の座り方」と同様にランキングが下がってきている。

 さてそもそも「迷惑行為」とは何か。迷惑行為とは=
一般には多くの人が「不適切だ」と感じる行為
 →その多くが本来は関わり合うことがない人同士が関わり合う場面で生じる

 一般に迷惑行為にリストされる項目には犯罪行為(痴漢やすりなど)は含まれていない。
 →迷惑行為は成文化されていない「常識」に反する行為と認識されている。
 →迷惑行為は成文化されない「規範」に違反する行為

 つまり乗客という一時的地位に期待される役割の一つは「他の乗客に迷惑をかけない」という行為である。役割は規範となる。
 「他の乗客に迷惑をかけない」という役割期待を取得した乗客は「普通の乗客」(小説の中で言う「大抵の乗客」)として認知される。
 迷惑行為をする人は普通農場客ではない、危ない人、車内の安定を乱す人と認知される。だから迷惑行為をする人には危険を避けるため、その人には近づかない。近づく場合には危険を承知の上で近づかなければならない。

 乗客のような一時的地位は深い人間関係に発展する可能性が少ない。そうした一時的地位にも役割期待があり、それを我々が取得するのはなぜだろうか?
 これは安全に社会生活を送るためのルール(社会規範)である。
 →接触する人間に対する判断基準になる。

 さてここで社会学の理論を一つ紹介する。「社会化」である。社会化とは

「他人が他者との相互作用の中で、彼が生活する社会、あるいは将来生活しようとする社会に、適切に参加することが可能になるような価値や知識や技術や行動などを習得する過程。」(『社会学辞典』有斐閣 )
 人間は社会化によって適切な行動パターンを習得しなければ社会の中で円滑に生活できない。社会は適切に人間を社会化することができなければ、社会を構成するメンバーがいなくなって、社会を安定させることができない。

 社会化は
「社会の担い手」
「社会化される者」
「伝達される内容」
「社会化の担い手と社会化される者の関係」
「社会化が行われる生活の場」
「社会化の背景」
という6つの要素から構成される。これら6つの要素の絡み合いの中で社会化が行われ、我々は社会のメンバーとなる。

 役割取得は社会化の一つの機能である。
 社会には地位ー役割という形で、地位に対する役割期待がストックされている。この社会がストックしている役割期待を、社会化によって自分のなかに取り込む。我々は取得した役割をそのときおりの地位に合わせて役割を選択して利用する。こうして社会の中で円滑に生活していく 。

 社会化は具体的にはどのように行われるのだろうか。社会化は「社会化の担い手」と「社会化される者」の間で模倣によって行われる。模倣という手段によって「伝達される内容」が伝達されると言うことである。
 子どもが親と同じ癖や行動パターンになるのは、模倣による社会化の結果。後輩が先輩に似るのも同じ。また夫婦がよく似た考え方や行動になるのも社会化の結果である 。

 役割取得は社会化によって行われることが多い。しかし模倣という社会化だけでなく、対人関係の中で役割が取得されることも少なくない。

 それではドラマのOPにもどろう。
 電車にあとから乗車したユキは他に空いている席があるにもかかわらず、征志の隣に座った 。通常、電車やバスの中で、若い女性が男性の隣に座ることは期待されない。男性が若い女性の隣に座ることも期待されない。こうした行為は役割期待とは異なる行動である。
→一般に「危ない」「おかしい」と判断される行動。

何かある!と考えるべきであろう。

<二人の出逢い(行動のきっかけ)>

 宝塚市立中央図書館(清荒神)での本の争奪戦。
 何度か図書館で見かけるが、互いに自分だけが相手を見ていると考えている。
 図書館以外の場所での接触はなかった。

<類似性の親近効果(類似性効果)>

 趣味、出身地、出身校、年齢、笑いのポイント、好みなどが似ている場合(似たもの同士)、同類意識が生じ、相手に親近感を持つ 。
 そうした親近感が好意あるいは恋愛感情に発展することは少なくない。ドラマの中では
「決定的日本の好みが似ている」
と発言され、類似性効果があることを臭わせる。

<ユキの期待>

☆普通の乗客ではしないような男性の隣に座るという行動、普通の大人ならあまりしない半身になって窓の外を見る行動をして、征志の関心を喚起する 。
「あれ見て、話に乗ってくれるような人だったら、きっとこの人のこと好きになるなぁって。」
ここでユキはとりあえず対人的地位としての「恋人」になることを期待して、征志に「かま」をかける。

<征志に反応>

 類似性効果と「好みのタイプ」、そして「生」のオブジェに対する関心から征志はユキのつりに乗る 。もちろんこの時点ではユキの「かま」とは意識していない。征志にとってはコミュニケーションのチャンスだと考えた。

「やっぱり造形かな。線もよれてないし高さもビシッとそろってて、重機でも使ったみたい。 」
→常識的で現実的な回答をおこなう。

 これはユキが期待している答えとは異なる。

<ユキの反応>

「私はね、字の選択のセンスがすごいと思うんです。全部直線で構成できる字なんですよ。だから造りやすい。それでいて目に入ったときのインパクトがすごいでしょう。初めて見つけたとき生ビール呑みたくなっちゃった」
→ユキの理解を紹介する。
 これに対して征志はさらに常識的な反応を行う。
「工事の下準備ですとか、イタズラなので撤去しますとか、現実的な答えが返ってきたら台無し。できればイタズラだったらいいなぁって。こんなにインパクトがあって、誰にも迷惑かからなくて粋なイタズラ、滅多にないから。意味がわからないままでいいから、ずっとあそこにあったらいいなあって 。」

 ユキは常識的、現実的な発想ではなく、ユニークな発想、楽しくなる発想を好む。そしてユキはそうした楽しくなる発想を共有できる人間を求めている。
→相手に対する期待
→恋人に対する役割期待

<征志の役割取得>

 ユキの意見を聞きながら征志の考えが動かされる。
「『なま』のほうだったらいいな」
→相手の意見への同調(役割取得への第一歩)

そして、ユキの「中央図書館、よく来ているでしょ」という発言によって相手も自分を意識していたことを知った。これによって征志の感情はさらに傾いていく。

ユキ「缶ビールじゃなくてジョッキでいきたかったんです」
征志「生ビール、呑むんだった今日でしょ」

こうして二人の恋がはじまる。

 逆瀬川の飲み屋で、二人は図書館に行く日程を決めるシーン。

ユキ「土曜日曜どっち?」
征志「あわせる。」

→征志は相手の意思を尊重する。
→これは相手を理解しようとする試みである。

<相手の理解>

「私たち、闘うの~?」
「これって決めた一杯を大事にするんだ~」
「今から送るとか言われたら泣く」
「征志君は私とこういう風になりたくないのかなと思って不安だった」
「お風呂借りなきゃいけないから」
→征志はユキが自分に好意を持っていることがわかる。
→恋人としての役割期待を理解する

<地位の確立と役割取得>

相手に対して好意がある、相手に気に入られたいと考えている場合、相手の役割期待にこたえようと反応する。
→相手のことを理解しようとする。
→相手に自分のことを伝えようとする。

対人的地位の確立とその役割取得は相互のコミュニケーションによって行われる。接触頻度が多いほど役割取得は円滑化する。
*家族、学校、会社など人間関係が密な集団ほど地位の固定化および役割取得が容易である。

<役割取得の3パターン>
・模倣による社会化
・対人関係でのコミュニケーション
・環境の変化に対する適応


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