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2010映画の社会学第3講 メディア論的方法(2) [映画の社会学]

映画の社会学 第3講 メディア論的方法(2)
演劇と映画

題材:

上田誠(ヨーロッパ企画)原作・脚本

『曲がれ! スプーン』

舞台:2000年初演
映画:2009年公開

<観客から観る演劇の特徴>

 観客の立場から演劇の特徴を考えると、次のような点が上げられます。

臨場感(現場性、一回性、相互性)
共有感
共振性

それぞれの特徴を詳しく考えましょう。

【臨場感-現場性】

 演劇では観客の目の前で物語(事件)が進行します。それは誰かに聞いたことでもなければ、過去に生じたことを映像でみるというものでもありません。観客は演技者の声、動き、音、においなどを生で感じることができます。他の演劇作品、特に子どもを対象にした演劇でよく利用される演出方法がこの作品でも利用されていました。演技者が観客席で演技をするという演出です。
 演劇では観客は現場にいて、参加しているような感覚で作品に接触することになります。こうした演出は歌舞伎でも使われる方法で、歌舞伎では舞台自体が現場性を演出できるように作られています。


【臨場感 一回性】

 歴史の中で生じた事件は1回だけの出来事であって、全く同じ事件は二度と生じません。演劇の公演は同じ場所で何度も繰り返し行われます。もちろんよほどのことがない限り、脚本や演出が変わることはありません。しかし実際に行われる舞台は、出演者の体調、本番中の突発的な出来事、あるいは天候などの要因によって毎回変化しています。歴史上の事件と同じように、その時の舞台は1回だけの出来事なのです。舞台には再現性はありません。
 同じ舞台は二度とない、という状況は出演者に大きな緊張感を与えることになります。そしてそのことが舞台をより生き生きとしています。


【臨場感 相互性】

 舞台の上で物語を作るのは出演者たちです。しかし演技の良さ、出演者たちの感情の高まりなどの要素は出演者同士だけで影響し合うわけではありません。演技に対する観客の反応、例えば声にならない声、拍手、笑い、ため息、あるいは緊張感などによっても出演者の演技は変化します。実際に演劇のゲネプロと本番との間には大きな相違がみられます。同じように演技しているのですが、観客がいるのといないのとでは、演技の出来に差がみられるのです。舞台は出演者と観客との相互作用によって作られます。観客にその劇団のファンが多ければ、そうでない舞台よりも多くの反応があります。
 観客が反応しなければ演技者はきちんと演技できない場合があります。お笑いでは観客が笑わないと、ネタを先に進めることができません。


【共有感】

 次に共有感についてです。
 演劇をご覧になればおわかりのように、演劇の舞台には独特な作りがあり、そこには様々なルールやお約束があります。演劇をよく観に行く人は、そうしたルールを知っていて、出演者と共有し、時には出演者を助けます。例えば、拍手のタイミングがずれると演技しづらくなりますし、「うける」場面で受けないと、出演者はショックを受けます。出演者が登場する場所を知らないと、どこを観ていいか分かりません。地方の劇場などで行われる舞台では、舞台の途中でかけ声がかかったり、花束を渡したりもします。出演者と同じ場所に観客がいる場合、まさに観客はその時その場の舞台の雰囲気をつくる要因になります。この雰囲気が臨場感にも影響します。
 演劇の世界は長い間演劇慣れした観客だけを相手にしてきましたが、それでは商業的に成り立ちません。そこで最近の演劇では素人でもわかるような工夫が行われています。


【共振性】

 最後に共振性です。
 演劇を観ていて、その気もないのに、まわりの観客につられて笑ったり泣いたりした経験はありませんか。演劇の舞台では観客同士で感情が共振することがあります。この感情の共振はその場の雰囲気を構成する重要な要素です。

 演劇のDVDはほとんど作られません。販売数も少なく、もちろんレンタルされる作品は多くはありません。その理由はここで説明した「観客からみる演劇の特徴」から理解できます。


 映画は演劇の代わりの娯楽として登場し、それらを駆逐していきました。そして1960前後に映画は大衆娯楽として全盛期になっています。それでは映画は観客から観た演劇の特徴をメディアとしてどのように継承したのでしょうか。

 「観客から観る演劇の特徴」は「臨場感」、「共有感」、「共振性」の3つです。これらの特徴を最後の項目から見ていきます。


<共振性>
 「共振性」については、演劇と同様、映画館で上映される映画は観客同士に共振性が存在します。ホラー映画のように映画を見ながら感じる恐怖は観客席で伝染します。最初はあまり怖くなかった人も、他の人が感じた恐怖が伝えられ、いつのまに怖れを感じるようになるのです。コメディ映画についても同様です。
 この共振の要素は、映画興行という側面から見て重要です。映画を観て感動した観客は、何度も繰り返して鑑賞したいと考えるでしょうし、その感動を他の人に伝えたくなります。こうして口コミで観客が増える可能性があります。観客の感動は作品のできによって個々人に生じることです。しかしながら共振性という要素は、感動をより大きくする可能性があり、またあまり感動しない観客の感情を揺さぶることもあります。こうして共振性は映画興行(売上)にも影響を与えるのです。


<共有感>
 映画では観客と出演者が直接接触する機会はほとんどないため、両者の間に共有感はありません。しかしながら映画を観た観客が出演者に対して何かを共有しているという感覚を持つことはあります。さらに出演者の行動を模倣することによって、共感することもあるでしょう。


<臨場感ー相互性>
 「臨場感」についてですが、演劇の特徴として定義した臨場感は映画にはありません。特に話しかけようが、笑おうが、あるいは泣こうが何の反応も返ってこない映画には、観客と演技者との間に、相互性という特徴はありません。ドラえもんのようなアニメならなおさら相互性など生じる可能性はないことを観客も知っています。


<臨場感ー一回性>
 映画はフィルムを映写しているだけなので、何回観ても変わりません。まったく同じ演技や内容が繰り返されます。そういう意味では、「一回性」という特徴はありません。一般的に観客は同じ場面で感動することが多いのですが、鑑賞する時の心情によって感動する場面が変化することがあります。「一回性」や「相互性」はありませんが、観客からみれば、自分自身だけに語りかけているような印象をもちます。この時、映画が自分に反応したような感情や、鑑賞するたびに異なるというイメージをもつのです。


<臨場感ー現場性>
 映画は舞台のように目の前で物語が進行するわけではないので、「現場性」はありません。しかし映画は演劇のように特定の舞台(ステージ)という限定を受けません。そのため映画は演劇とは異なった別の臨場感、「リアリティ」と呼べるような印象を観客に呼び起こすことができます。


 映画はスタッフとカメラがあればどこでも撮影できます。そのためセットや室内だけでなく、屋外のどこもが「舞台」になります。いわゆるロケーション撮影です。
 映画は演劇のように舞台という場所に限定されないで、私たちが生活している「現場」を舞台にして撮影することができます。こうして映画は演劇とは異なったリアリティを演出しました。

 舞台版では舞台の場所をあちらこちらに移動して表現することはできません。しかし映画ではロケによってあちらこちらを舞台として利用しました。


 こうして映画は映画独自のリアリティを創造しました。ただし残念ながら費用面、撮影の効率化の側面からロケーション撮影が少なくなっています。日本映画『ALWAYS 3丁目の夕日』(山崎貴監督)は大部分のシーンがオープンセットで撮影され、ロケはほとんど行われていません。将来、こうした撮影方法が主流になるのかもしれません。おそらくCG技術は今後も進化し続けるでしょう。そうなればわざわざロケをしなくても、映画が撮影できるので、ロケをしなくなるでしょう。


アニメで表現可能な世界は、実写でも可能になりました。
→アニメとして制作する意味、フルCGとして表現する意味が必要になります。
たとえば、映画版『ファイナルファンタジー』


 このように観客という視点から見た場合、映画は演劇の特徴を「共振性」以外は継承していないことになります。確かに映画は演劇に代わる娯楽として定着したのですが、メディアとしてはまったく異なるからです。


<演劇とは異なる観客へのアプローチ>

 これまでは演劇と映画の共通点を見つける作業を行ってきました。ここでは演劇ととは異なる点について議論します。演劇とは異なり、映画では観客に注目させたい部分を正確に見せることができます。見せたい部分をスクリーンに映し出すからです。演劇ではときおり、どこを見たらいいかわからない場合があります。これは演劇に慣れた人にしかわからない点かもしれません。
 そのため、画面の構成が重要なのです(これをフレームといいます)。そのため映画制作者の監督は「絵コンテ」と呼ばれるものを描き、フレームの構成を明確にします。


<演劇とは異なるメディアとしての映画の特徴>

 演劇とは異なり、演技者の体力に関係なく、何度でも同じ作品が上映できます。機材されあればどこでも上映できるという大きな特徴もあります。そして何より、演技者の年齢、天候、時代などの変化に左右されません。観客はいくつになっても同じ作品を鑑賞することが可能です。


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