SSブログ

2009社会学入門第11講 権力 [社会学入門]

社会学入門2009 第11講 権力
 
今回の教材
「白い巨塔」(第1話
脚本:井上由美子
演出:西谷 弘
2003年10月9日~2004年3月18日
フジテレビ系木曜10時枠(木曜劇場)
フジテレビ開局45周年記念ドラマとして製作。山崎豊子原作小説の4度目のドラマ化。


 今回取り上げる唐沢主演ドラマの脚本は人気脚本家井上由美子が書きました。基本的に田宮出演のドラマの枠組みを踏襲しながら、舞台を現代に移し、医療関係の内容にも手が加えられています。特にライバル里見と愛人花森の描き方が印象的です。

 『白い巨塔』のなかで描かれた東教授と財前助教授、東教授と第一外科の医局員、財前助教授と金井講師、財前助教授と第一外科の医局員の関係はどのような関係でしょう。財前助教授は東教授の言葉をことごとく肯定し受け入れています。実際には否定したとしても、少なくとも肯定し受け入れる態度を示そうとします。財前教授と医局員の関係も同様です。ここには「支配-服従」という関係があります。「支配-服従」という関係の中で威力を発揮する力を「権力」と呼びます。ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーは権力を次のように定義しました。

「ある社会関係の中で、他者の抵抗を排除して自己の意志を貫徹するすべての可能性」

東教授は、野心あふれる財前助教授の反論を許さず自分の意見を貫き通そうとしてます。つまり東教授は財前助教授に対して「権力を行使」しているのです。
 ある社会関係において「権力」が成立するには、次の4つの条件があるとされます。

1.選択肢(行為の可能性)
 服従者には少なくとも2つの選択肢が与えられています。1つしか選択の可能性がなければ、権力が働く余地はありません。
 財前助教授は東教授のやり方を否定する(たとえば大阪府知事の手術に関して「乱暴だ」と言われたとき、はっきりとそうではないと否定することができます)ことができました。

2.自由意志
 服従者は、自分自身に何らかの原因をもっていて、いやいやであっても自発的に権力に服従します。つまり権力に服従することは、他人の意志ではなく自由意志による選択の結果なのです。
 財前助教授は大阪府知事の手術に対する批判に抵抗することができましたが、東教授に嫌われると「教授」に推薦してもらえない(原因)ため、反論しないで批判を受け入れました。

3.選好
 服従者は、複数の選択肢に対して自分自身で好ましさや嫌さという選好(よりごのみ)をもっています。どの選択肢にも選好なく同じであれば、権力が働いたとはいえません。
 東教授の総回診のシーンで、財前助教授が東教授から叱責を受けたときの医局員たちの反応が東教授についていくべきか財前助教授についていくべきかの選好を示しています。第2話では財前助教授は、東教授に気がつかれないうちに秘密裏に膵臓ガン患者の手術を行います。その際、金井講師は最初手術に参加することを拒否するのですが、実際に手術が始まってから手術に参加します。これは金井講師の選好をより明確に示していると思います。

4.仮想現実
 現実はこうなっているが、別の現実がありえたというように現実ともう一つの(あるいはそれ以上の)現実と比較すること。服従者が想像力を働かさなければ権力は成立しません。
 財前助教授は教授になるために東教授に服従するのですが、教授になれなければ、何のために雑用したのかわからない、と発言しています。これは現実と仮想の現実を比較しているということを示しています。

 これら4つの条件が組み合わさって権力が成立します。そして東教授と財前助教授、東教授と第一外科の医局員、財前助教授と金井講師、財前助教授と第一外科の医局員の間には権力が成立しています。
 権力が成立するためには上述のように4つの条件が必要です。この条件の中で疑問に感じるのは、服従者は権力の行使を拒否する可能性があるにもかかわらず、それを受け入れているのはなぜか、ということでしょう。権力の行使には支配する側に有利なような選択の力があると考えられます。権力者にとって有利な選択をさせる力、自分の支配を安定させるためには何が必要なのでしょう。これについては権力の4つの類型をみれば、理解できます。


 権力には次の4の類型があります。
「自発的服従」
「説得による支配」
「威嚇による支配」
「暴力による支配」

「自発的服従」
自発的服従では、服従者は支配を当然のこととして受け入れます。たとえば、互酬性が確保されない社会的交換においては、服従者は支配者に対して負い目を感じ、支配に服従します。あるいは支配者に秘密を握られている場合もやはり服従者は自発的に相手の支配に服します。恋愛関係のおいては、先に相手に惚れた方が、惚れた弱みから相手の言うことを積極的に聞きます。

「説得による支配」
支配者が服従者に服従の理由を説明し、服従者はそのことを了承した上で権力が行使されます。たとえば封建的主従関係では、主人は働きに応じて従者に対して報償を出します。従者は報償が与えられることを了解して、主人の命令に従います。封建的主従関係でなく、現代社会においても利益が与えられることを条件に支配者に服従する場合があります。企業と雇用者との関係は、一種の説得による支配関係があるといえます。

「威嚇による支配」
服従しなければどうなるかを脅しながら実行される権力です。たとえば服従しなければ、金銭、名声、社会的地位からの失墜をほのめかしたり、暴力をふるうと脅して、服従させます。
『白い巨塔』の中で、東教授は自分が退官したあとの教授の推薦をほのめかしながら、財前助教授を服従させようとしました。ストーリーが進行する中で実際に東教授は、財前助教授を教授に推薦しませんでした。その結果、財前助教授は東教授に服従しなくなります。

「暴力による支配」
実際に暴力を行使して支配に服従させる権力です。たとえば『ドラえもん』のなかで、ジャイアンはのび太に暴力をふるって服従させています。これは暴力による支配です。暴力による支配では、支配者は常に暴力を行使し続けるか、暴力を行使する手段を備えておかなければなりません。服従者が支配者よりも強くなったり、支配者が暴力の手段を失ったら、支配できなくなります。

 支配の可能性の高さ、権力を維持するためのコストの大きさ、権力の安定性の3つによって4つの類型を比較すると、次の図のようになります。

「自発的服従」では、ほとんどコストをかけずに比較的安定した権力が行使できます。それに対して「暴力による支配」では、安定して強い権力を行使し続けるためには、膨大なコストがかかります。つまりコストをかけずに、服従者が自発的に支配に服従するような権力が理想的な権力です。

 これについては次回の講義で説明しましょう。


白い巨塔 DVD-BOX 第一部

白い巨塔 DVD-BOX 第一部

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: DVD



白い巨塔 DVD-BOX 第二部

白い巨塔 DVD-BOX 第二部

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: DVD



nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。