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2009社会学入門 第12講 権威 [社会学入門]

社会学入門2009 第12講 権威
 
 前回の講義で説明したように、権力は支配-服従関係において行使されます。権力が成立するためには4つの条件が必要ですが、その条件を考えると、服従者は支配に対して「服従しない」という選択をすることが可能です。それにもかかわらず服従者は支配を受け入れ、「服従する」という選択をしてしまいます。

なぜでしょう。

 これについては前回の講義で説明した支配の4類型をみればわかります。どのタイプの支配にせよ、服従者が「服従を選択する」何らかの理由があります。だから「服従しない」という選択が好ましい場合でも「服従する」という選択をしてしまうのです。

 権力を行使する立場からみればと、権力を維持するためには必ずコストがかかるということがわかります。「威嚇による支配」や「暴力による支配」において、支配の可能性を高め、権力を安定して行使するためには非常に高いコストがかかります。コストをかけ続けなければ権力を維持することができません。
 「自発的服従」では服従者が自発的に服従するため、権力を維持するコストはほとんどかかりません。このもっともコストのかからない権力を実現するためには何をすればいいのでしょう。これが今回の課題です。


今回の教材
「Good Job」(第1話)
脚本:大森美香
原作:かたおかみさお『kiss』(講談社発行の雑誌)に不定期に掲載
2007/3/26-3/3023:00~5夜連続、NHK総合で放送


 前回の講義で紹介したように、権力は私たちの日常生活の中で大切な視点です。まずは権力の復習をしましょう。

 営業2課に転勤してきた黒木。彼の状況の定義は、どのようなものかを考えてみたいと思います。ドラマの中での黒木セリフを取り上げてみます。

「アシスタントは誰でも同じ」
「OLはどこにでもいる。誰がやっても同じだ」
「OLは俺ら(営業)の言うとおりにしっかり働いてくれればいいんだ。OLは仲間じゃない」

「残業拒否ね。OLは気楽でいいなあ」
「OLに気を遣いながら働くのは嫌だ」


 これらのセリフから黒木の状況の定義は次のように推察することが出来ます。

 黒木は、<総合職の営業>と<一般職の事務OL>との関係を「支配-服従」の関係と捉えています。その関係の中で、黒木は自分が権力を行使する役割だと考えました。
 第2回目のレポートの課題に利用した『ハケンの品格』では、東海林は<正社員>と<派遣社員>の関係を「支配-服従」関係と考えています。だから東海林は派遣社員に命令したのです。

 それでは「権力が成立する4条件」にあてはめてみます。


権力が成立する4条件
選択肢(行為の可能性)
 一般職OLの上原は「何も言わずに」黒木の指示に従うことも、「何か言って」黒木の指示に従うこともできます。『ハケンの品格』の大前も森も、正社員の言うとおりに働くことも拒否することもできました。そして大前はというと、東海林の指示を拒否しました。この段階で、東海林は大前に対して権力を行使できなくなります。


権力が成立する4条件
自由意志
 上原は仕事だから黒木の指示に従います。大前も仕事上必要なことは正社員の指示に従いました。森美雪は仕事を失いたくないので、自分から焼きそばパンを買いに行くと言います。3人とも自分の意志で自分の行為を決定しています。


権力が成立する4条件
選好
 上原は「言い過ぎた」と発言していました。「何も言わない」のと「何か言うこと」という選択肢に対して、より好みをしているということになります。選り好みをしていなければ、「失敗した」とは思いません。


権力が成立する4条件
仮想現実
 結果的に上原は黒木の指示に従います。しかしそのプロセスの中で、黒木に注文をつけました。それはもし何も言わなかったらどうなるか、ということを、つまり仮想の現実と比較して、注文をつけた方がよいと判断し、注文をつけたのです。


権力についての見解の相違
 4条件が成立し黒木は権力を行使します。しかし支配する黒木と、服従する上原とでは権力について捉え方に相違が見られます。


黒木の見解
黒木は
<総合職営業>-<一般職事務OL>の関係→「支配-服従」関係という構図が会社という組織の伝統であり、一般職が総合職の支配に服従するのは当然であると考えています。つまり黒木は、一般職は「自発的服従」をするものだと考えている。


上原の見解
 上原は総合職、一般職という職種間に上下関係があるとは考えない。一般職OLは総合職営業の指示に従うことが、組織として会社として「意義のあること」だと納得して服従するものだと考えます。つまり上原は、一般職は「説得による支配」に服していると考えています。


『ハケンの品格』の正社員はどうでしょう。
 『ハケンの品格』の正社員は派遣社員に対して「契約を切る」「チェンジ」などと威嚇して派遣社員を服従させていました。つまり正社員は、「威嚇による支配」を当然のことだと考えています。


安定した権力の行使
 権力を安定して行使するためには、<支配-服従>関係が安定して維持されなければなりません。そして安定した<支配-服従>関係には「権威」が存在しています。


権威(authority)とは?
 権威とは、「複数の人間から自発的・盲目的な服従を引き出す力」であり、権威の源泉は、「複数の人間から、自分たちより優越した何らかの価値が備わっていることが必要であり、それを人々が社会的に承認」されなければなりません。他人より優れた何らかの価値には「個人の属性」に関する価値と「社会的地位」に関する価値があります。


権威における優れた価値とはなんでしょうか?
 「個人の属性」とは、魅力、識見、経験、技術、特異な能力で、「社会的地位」とは、家柄や肩書き、職業などをさします。

 『白い巨塔』を例に考えると、財前助教授には秀でた外科技術があることがわかります。これは個人の属性による権威です。一方東教授には、国立浪速大学病院第一外科教授という肩書きによる権威が備わっています。


権威に基づく権力の行使
 権威の正当性を承認する人の数が多くなれば、権力の行使は安定し、強力になります。なぜなら権威は服従者自身がその正当性を認めなければ成立しないからです。権威に基づく支配-服従関係では、自発的服従という権力が行使されます。権威に基づいた支配は「伝統的支配」、「カリスマ的支配」、「合法的支配」の3つに分けられます。


伝統的支配
 「伝統的支配では、今までもそうしてきたのだからこれからもそうしよう」というように伝統に基づいて、服従者は自発的に服従します。家制度の中での家長の権威や男性優位社会における男性の権威、家元制度における家元の権威など。伝統的支配は社会的地位による権威と考えることができます。


カリスマ的支配
 特別な人間がもつ資質や才能をカリスマと呼びます。カリスマ的支配では、カリスマをもった人物に対して人々が畏怖の念をもって服従します。たとえばイエスやマホメット、釈迦のような宗教者やナポレオンのような英雄、レーニンのような革命家、ヒトラーのような煽動家などはカリスマをもった人物として、人々は尊敬し、畏怖の念をもって従います。カリスマ的支配ではカリスマをもった人物と服従者との間に情緒的な関係があります。
 カリスマ的支配は、カリスマをもった人物が死亡した後も「世襲カリスマ」や「官職カリスマ」として継承されます。「世襲カリスマ」では、カリスマをもった人物の血脈にはカリスマが継承されるという信念に基づいてカリスマが継承されていきます。映画『ダ・ヴィンチ・コード』では、イエスの血脈にイエスのカリスマが継承されているように描かれていました。「官職カリスマ」では、組織上の地位にカリスマ性が付与されて(人々がカリスマが継承されると承認して)継承されます。イエスのカリスマはローマ法王に継承されました。


合法的支配
 規則(制度)に正当性があると人々が意識して成立する支配。たとえば行政官僚、政党、企業などの官僚制的組織の階層的支配がこれにあたります。国会議員がときおり偉そうな顔をして人に命令を下して、服従させているが、これはこの合法的支配に基づきます。国家議員という社会的地位は人々が選挙という行為によって、権威が付与されました。端的にいえば、選挙というのは、権威を承認する行為であり、自発的に支配に服するということを認めることになるのです。
 大学病院における教授は制度によって権威が付与されています。人事権という威嚇の材料をもっていますが、それよりも制度によって正当化された権威が重視されます。教授に就任した人物は教授職に付与された権威に基づいて医局員を支配します。この制度を認めている医局員にとって、教授の権威は絶対です。だから医局員は自発的に教授に服従します。しかしこの制度を認めていない人間にとって教授の権威は意味をもちません。第一内科里見助教授は大学病院における階層的支配の制度を認めていないため、教授に服従しないのです。


上原が営業2課の人に権力を行使できるのはなぜか?
 ハイパーOL仮面と呼ばれるほど、仕事の能力を認められ、チームをまとめるリーダーシップが営業2課の人から高く評価されています。つまり上原の「カリスマ」が承認され、「カリスマ的支配」が実現しているのです。


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