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社会学入門 第12講 様々な社会学理論(3) 権威 [社会学入門]

社会学入門 第12講 様々な社会学理論(3)権威

 今回の題材は『白い巨塔 第1話』です。原作は山崎豊子の小説で、何度かドラマ化されました。今回、対象とするのは最新の2003年にドラマ化された作品です。これはフジテレビ開局45周年記念ドラマとして放送され、高視聴率を記録し、海外でも好評価を得ています。


放送期間:2003年10月9日~2003年12月11日(第1部)
     2004年1月8日~2004年3月18日(第2部)

キャスト
財前五郎 : 唐沢寿明
里見脩二 : 江口洋介
東貞蔵  : 石坂浩二
鵜飼良一 : 伊武雅刀

脚本:井上由美子
音楽:加古隆
プロデューサー:高橋萬彦、川上一夫
演出:西谷弘、河野圭太、村上正典、岩田和行


 前回紹介した権力ですが、権力を安定して利用するためには、自発的服従という形がもっとも適しています。権力を安定して利用する力の代表は「権威」(authority)です。
 「権威」とは「複数の人間から自発的な服従を引き出す力です。「白い巨塔 第1話」ラストの「ガン告知」のシーンで、財前助教授の告知を患者家族が素直に「信じて」、財前が直してくれることを疑いませんが、この「告知」の場面には権威が作用しています。

 権威が生じるためには「社会的承認」が必要です。ある人に対して、複数の人が、その人には自分たちよりも優越した「なんらかの価値」が備わっていると、認めるとき、そこに権威が生じるのです。ここでのポイントは、一人の人が特別な価値を認めるということではなく、「複数の」人が価値を認めるということです。複数の人が認めることによって、権威が生じ、他の人もその権威を承認するようになります。一人の人が承認するだけでは、その権威も一人の人しか認めず、社会的に影響力のある「力」にはなりません。

 それでは権威の源泉となる「なんらかの価値」というのは何でしょう。
 一つには「個人の属性」が上げられます。たとえば人びとを引きつける魅力、人を驚かせるような識見、誰もが評価する経験、畏怖するような技術などの特別な能力です。もう一つは「社会的地位」です。徳川家の子孫と聞くと何となく価値があるような気がします。名刺になんだか偉そうな横文字の資格や肩書きが並んでいると「すごい」と思います。特定の職業に対してはそれだけで「先生」と呼んでしまいます。そしてこうした個人の属性や社会的地位に対して、その権威を承認する人が増えれば、つまり「すごい」と感じて、思わずその人の言うことをきいてしまう人が増えると、安定した権力を行使する可能性が大きくなります。
 「白い巨塔」は大学の医学部を舞台にしていますが、医者という社会的地位に対して、その権威を承認する人は少なくありません。従って、患者は医者の権威に服従しやすくなります。こうして医者-患者という関係は、権威を仲介して支配-服従という関係になってしまいます。


 安定した「支配-服従」関係には、権威が存在し、その権威が正当であると認める可能性が高くなります。そしてそれが固定的な権力構造を生み出すことになります。こうした正当な支配構造には3つの類型があります。

伝統的支配
カリスマ的支配
合法的支配

<伝統的支配>

 伝統の神聖さにもとづき、服従者は自発的に服従します。「伝統が神聖だ」と信じている人、別の表現をすれば、「今までしてきたことは、これからもそうしなければならない」と考えている人は、その考えに従って服従するということです。伝統的支配は具体的な事例を紹介すれば、内容が理解できると思います。
 伝統的支配では、伝統の維持が重視され、新奇さ、新しい思想は敬遠されます。伝統を変えることに極度の抵抗を感じるということです。

 伝統的支配の例としては、以下のようなものが考えられます。

・家父長制下の家長の権威
・男性優位社会における男性の権威
・奴隷制度での主人の権威
・家元制度
・君主制

「白い巨塔」のような大学の医学部は、研究室制度という伝統があります。第一外科、第二外科、第一内科、第二内科などのように専門科ごとに研究室(医局)が明確に区別され、その中に教授を頂点として、助教授、講師、助手、研修医、看護師などが所属します。職階が一つでも違えば、身分の差は雲泥の差があると考えられ、下位の者は上位の者に反抗することができません。第一外科東教授はこの「伝統」にこだわっています。

<カリスマ的支配>

 カリスマをもつ人間に対して、人びとが畏怖の念をもって服従するというのが、カリスマ的支配です。カリスマとは、「特別な人間のみがもちうる特異な資質や才能です。自分がもっていない特別な能力を見せつけられた人間は、たいてい、その能力に怖れと同時に魅力を感じます。恐れの感情の方が強い場合には、その人から距離をおこうとしますが、魅力を強く感じる場合には「そばにかしずきたい」と考えるでしょう。そして自発的かつ積極的にその人の世話をし、その人に服従します。このようにカリスマ的支配では、支配-服従関係に「情緒的な絆」が存在します。
 たとえば、イエス・キリストや仏陀、マホメットなどにはカリスマがあると考えられ、カリスマ的支配が行われました。信者は自発的・積極的に教祖に服従し、そばから離れませんでした。
 ドラマ冒頭の手術シーンで、財前助教授の施術風景が描かれています。医局員たちは財前の技術を褒め称えます。伊藤英明演じる柳原は、その技術をカリスマと受け止め、財前に近づきたいという憧れをいだいていました。助手たちも同様です。そして財前自身も自分の才能を認め、さらにその技術をみがこうとしています。こうして財前はカリスマ的支配の可能性を高めていました。

 もしカリスマをもった人間が死亡してしまったらどうでしょう。あるいはカリスマを喪失してしまったら、どうなるのでしょうか。こうした場合、大きく二つのパターンが考えられます。
 一つは世襲カリスマです。カリスマをもつ人間の血脈(直系)にはカリスマが継承されるという信仰に基づき、カリスマ的人物が死亡した場合、服従の対象をその直系に変えます。キリスト教ではイエスは結婚せず、子どももいなかったと、伝統的には考えられています。しかし小説『ダヴィンチ・コード』で示されたように、キリスト教世界ではイエス・キリストには子孫がいるという伝説が根強くあります。そしてその子孫にはイエスのように特殊な能力があると考えられています。今でも教祖が死亡したときには教祖の子どもが教団の指導者になるという宗教集団が少なくありません。これは世襲カリスマです。
 世襲カリスマというパターンが固定化すると、伝統的支配という支配類型に変化します。この場合、カリスマの有無にかかわらず、教祖の子孫だから指導者になるというような伝統が形成されたということです。
 もう一つのパターンは官僚カリスマです。これは組織上の特定の地位にカリスマ性を付与して、カリスマ的人物のカリスマを継承させようというパターンになります。たとえば、カトリック教会という組織の頂点には「法王」がいますが、法王とはイエスのカリスマを継承した「地位」です。その人物自身にカリスマがなくても、「法王」になればカリスマがあると信じられます。ちなみにイエスの死後、最初に法王の地位に就いたのは一番弟子と言われたペテロです。官僚カリスマでは、カリスマを付与する儀式が行われ、その儀式の中でカリスマが現れます。

<合法的支配>

 制度として多くの人に認められた規則(ルール)に正当性があると考え、規則に従って支配に服従するというパターンです。このパターンの例は、官僚や政党、大企業などのいわゆる官僚的組織で作られた階層的な支配です。企業ではこのパターンでは社会の変化に追随できずに損失をだすことが多くなってきたため、官僚的組織を解消し始めています。しかし官僚の世界ではまだまだこうした階層的な支配構造が崩れておらず、職階が一つでも違うと雲泥の差があると感じられ、上司に逆らうことはできません。
 医学部の研究室という制度は伝統的支配というパターンだけでなく、合法的支配というパターンでもあり、かなり強固な形と言わざるを得ません。
 このパターンでは規則を守るという意識や階層の上位に位置したいという欲望がなければ、支配-服従という関係は成立しません。江口洋介演じる第一内科の里見助教授には、いわゆる出世欲がないため、上位の鵜飼教授に批判的な態度を示します。


 権威というのは、そもそもその人自身の力によって生じるというものではなく、その人の能力やその人の地位に対して、人びとが「承認」することによって生じます。権威者というのは、人びとが作り出したもので、その人自身の力で権威者になれるわけではないのです。財前助教授にしてもマスコミ関係者や医局員が、「権威」を承認するから権威者になれるのであって、自分自身で権威者になることはできません。
 もしも人びとが「承認」しなければ、そもそも支配-服従という権力構造さえも生じないのです。権威の失墜、カリスマの喪失という現象はいとも簡単に生じます。
 政治家は選挙区の有権者が「投票」しなければ、政治家になれません。このことを選挙の時期は意識しているかのように振る舞いますが、選挙が終わって当選してしまえば、権力を行使し、人びとを支配しようとします。これは大きな間違いです。政治家が権力を行使することが可能なのは、人びとが政治家の「権威」を承認しているからです。人びとが政治家の権威を認めなければ、政治家もただの「おっさん」、「おばさん」あるいは「にいちゃん」、「ねえちゃん」です。このことを忘れていけません。

 こうした「権威」という考え方は、円滑な夫婦関係、恋人関係にも援用できます。ご自分で考えてみてください。


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