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社会学入門 第11講 様々な社会学理論(2) 権力 [社会学入門]

社会学入門 第11講 様々な社会学理論(2)権力

 前回、交換理論について説明しました。交換の中には他者を動かす力もあります。
 例えば、権力(power)もそうした力の一つです。社会学の創始者のひとりであるドイツの社会学者M.Weberは権力を次のように定義しました。

「他者の意志を排除して自己の意志を貫徹する一切の可能性」

ヴェーバーは、自分の意志とは関わりなく、他人の意志によって動かされる可能性を知っていました。それを彼は権力だと受け取ったのです。権力は、<支配-服従>関係において発揮される力であり、支配と服従が交換されています。支配者が「支配する」のと交換に服従者は「服従」します。具体的にいえば、「命令」という言葉に服従して支配者に奉仕するという交換です。

 今回はこの権力について考えてみたいと思います。

題材は『女王の教室 第1話』です。このドラマは、日本テレビ系列で土曜日夜9時から放送されました。いわゆる「土曜ドラマ」枠です。関東地方の平均視聴率は17.4%を記録し、瞬間最高視聴率は31.2%、第1回目の視聴率14.4%から最終回の視聴率25.3%という上昇は10年前のドラマ以来と言われています。ちなみに台湾、香港、韓国などでも放送され、高視聴率を記録しました。
 
放送期間:2005年7月2日~2005年9月17日(全11話)

キャスト
阿久津真矢 : 天海祐希
神田和美  : 志田未来
真鍋由介  : 松川尚瑠輝

スタッフ
プロデューサー :大平太(日本テレビ放送網)、仲野尚之(日活撮影所)
脚本      :遊川和彦
演出      :大塚恭司、岩本仁志、渡部智明、木内健人


 それでは支配-服従関係における権力の4類型について説明したいと思います。権力には4つの類型が設定できます。

自発的服従
説得による支配
威嚇による支配
暴力による支配

です。

<自発的服従>
 自発的服従とは、「服従者が支配を当然のこととして受容する」ことです。自発的服従では支配を維持するためのコストがほとんどかかりません。服従者が自発的に服従するからです。
 たとえば、先週説明した互酬性が確保されない社会的交換、負い目から生じる支配では自発的服従が生じます。一方的に相手に愛情を感じている場合、相手のいうことを自発的にきいてしまいます。
 支配者に何らかの秘密を知られている場合、秘密が暴露される可能性(支配者が暴露しようと考えていない場合でも)があると考え、自発的に服従します。
 あるいは制度や慣習として自発的服従が生じる場合もあります。女系の一族においては男性は婿入りし、妻や義理の母親に自発的に服従します。

 ドラマの中で生徒たちが真矢のいうことをきいて、必死になってテストに取り組むシーンがあります。どうして生徒たちは必死になってテストに取り組んだのでしょう。あるいは別のシーンでは生徒たちは真矢の言うとおりに席に着き、あるいは机を移動させています。どうして生徒たちは真矢に服従したのでしょう。

 ドラマの中で、6年3組の生徒と真矢が最初に出会うシーンがあります。あのシーンで、真矢がいきなりテストを始めようとすると、生徒たちは自己紹介したり、出席をとるように要求しました。それに対し、真矢は生徒の個人情報をすべて覚えていることを示し、そうしたいわゆる懇親の時間が無駄であることを示しています。この行為によって実は生徒たちに、「教師-生徒」関係が成立していることを思い出させることになります。
 そして教師は「教える者」、生徒は「教わる者」という、一般に共有され、生徒たちに期待される「地位-役割」関係を示すことになります。このことにより、生徒たちは真矢に自発的に服従していく行動をとります。


<説得による服従>
 説得による服従では、「支配者が服従者に服従の理由を説明し、お互いに了承した上で支配が実行されます」。たとえば、封建的主従関係、利益供与による支配がこれにあたります。普通の人は封建的主従関係を、服従者が自発的に服従しているような印象を受けているようですが、実際にはそうした一方的に関係ではなく、支配者は服従者に必ず恩賞(土地や財産、あるいは名誉)を与えています。

 ドラマの中では、真矢が次のように社会の現実を呈示することによって、だから私のいうことを聞いて、勉強をしなければならないのだ、と説得します。

「愚か者や怠け者は差別や不公平に苦しみ、賢い者や努力したものはいろいろな特権を得て、豊かな生活をおくることができる」

 されに成績上位者には特権を与えることが約束され(大きなロッカーの優先的利用、1時間目の授業からの参加、好きなところに座れるなど)、実際にカレー事件では、成績上位者だけがカレーライスを食べることができました。成績が悪かった生徒は、ご飯だけです。
 テストの結果発表のシーンでは、成績3位の生徒に「残念だったわね。次はガンバってね」と声をかけ、報償をにおわせています。


<威嚇による支配>
 威嚇による支配では、「服従しなければどうなるかを脅かしながら実行されます」。たとえば服従しなければ、名声や社会的地位から失墜させるぞ、と脅かしながら服従させます。あるいは実際には行使しないのですが、暴力を行使するぞ、とほのめかすことで支配します(実際には拳を振り上げるだけで威嚇になります)。

 ドラマでは、「成績下位の2名は代表委員(雑用係)」なるという罰が示されます。代表委員はクラスの雑用を一手に引き受けて、他の生徒が勉強に集中できるように犠牲を強いられる存在です。
 さらに「私に逆らう人はテストの成績に関係なく、代表委員をやっていただきます」という命令によって、生徒たちはますます真矢に服従することになります。
 もう一つ、真矢は神田和美に話しをする時には、背の高さを利用して「上から」話しをします。生徒たちの目線の高さに合わせると、同等の意識を持たれてしまいますし、親しみやすい印象を与えることになりますが、上から話しをすることによって、明確な威嚇になるのです。


<暴力による支配>
 最後の暴力による支配ですが、これは実際に暴力を行使して支配するという類型です。この支配の類型では、常に暴力を行使するか、暴力を用意しなければなりません。
 暴力的支配の典型的な行為は、DV(ドメスティック・バイオレンス)、虐待、いじめ、あるいは戦時中の軍の刑務所などです。
 ドラマの中では、少なくとも真矢は暴力的支配は行っていません。

 こうしてみてくると、真矢は「暴力的支配」以外のすべての類型を利用して、生徒たちを支配していることがわかります。これは権力を維持するためのコストがかなり大きいことがわかります。しかしそれだけ権力が安定し、子どもたちが服従する可能性も高くなっているということを示します。物語が進行していくとよくわかるのですが、真矢は権力を維持するために、精神的に相当無理をしているし、仕事にかける時間が生活を圧迫していることもわかります。実は、それほど生徒に愛情を注いでいるのだ、というのが最終話で明らかになります。

 次回はこうした権力を支える構造について、お話ししたいと思います。

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