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社会学入門2011 第10講 交換理論 [社会学入門]

社会学入門2011 第10講 交換理論

 1987年国鉄(国営鉄道)が分割民営化された。民営化されたJR東海が最初に制作したのが「シンデレラ・エクスプレス」シリーズである。1987年放映されたCM「シンデレラ・エクスプレス」はユーミンのアルバム『DA・DI・DA』に収録された「シンデレラ・エクスプレス」という曲をモチーフにしている。
 当時、東京発新大阪行きの最終新幹線は、東京21時発新大阪0時着であり、0時着ということをもとにして乗客をシンデレラに見立てて制作された。そしてこのCMが話題になるのと同時に実際に東京発の新幹線で別れを惜しむ恋人たちの姿が見られることを報道されるようになり、さらに話題になる。1992年、ダイヤ変更によりふたたび「シンデレラ・エクスプレス」をモチーフにしたCMが制作され、さらにその間に「クリスマス・エクスプレス」シリーズのCMも話題を呼び、遠距離恋愛が注目を集めた。

 今回の教材はそうした遠距離恋愛が話題になっていた1991年に放映されたドラマを対象とする。

「逢いたい時にあなたはいない」(第1話)22.5% 平均視聴率22.0%
脚本:伴一彦
演出:本間欧彦・木村達昭・石坂理江子
プロデュース:亀山千広
1991年10月7日~12月16日放映 月9ドラマ


 さて今回のテーマは「遠距離恋愛は続くのか?」ということである。遠距離恋愛についてはさまざまな専門家がHPで議論している。そのなかでポイントだと思われる点は以下の2点。

1.距離感の問題

 物理的距離、時間的距離、心理的距離などいろいろな距離がある。遠距離恋愛という言葉通り、この距離感が遠いのが遠距離恋愛になる。
 ドラマのなかでは、はじめての長距離電話で「声はこんなに近いのに・・・」という心の声がナレーションされている。

2.接触頻度の問題

 人間関係の維持には接触頻度が大きな要因になっている。遠距離恋愛ではこの接触頻度が減少するが、これがどのように影響するのか。

 こうした問題について、まずはよく利用される心理学の理論からの説明を紹介してみたい。

<ボッサードの法則>

 遠距離恋愛でよく紹介されるのはボッサードの法則である。

 アメリカの心理学者ボッサードが発見した法則。
 ボッサードが婚約中の5000組を調査したところ(1932年)、婚姻届を婚姻届を出した時点で、12%カップルがすでに同棲していたことが判明。さらに、1/3のカップルが5ブロック以内の範囲に居住し、ほとんどのカップルが電車で数駅の範囲内に住んでいたことがわかった

 この調査結果から次のような法則が発見される。

「カップルを隔てる距離と、結婚までに至る人数は反比例する」(2人の距離が離れているほど結婚にたどり着く確率は低い)

 この結果を一歩進めて、

「男女間の物理的な距離が近いほど心理的な距離は狭まる」

という理論を導きだした。

 ボッサードの法則を遠距離恋愛に照らし合わせると、遠距離恋愛は男女間の心理的な距離をひろげることがわかる。

→二人を結びつける心理的な力が弱くなる。
→別れる力の方が強くなる。


<単純接触効果>

 アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが論文にまとめた理論(1968年)。

 よく会う人や繰り返し聴く音楽を好きになっていくように、何度も見たり聞いたりすると次第によい感情が起こるようになる。これは見たり聞いたりすることでつくられる潜在意識が印象評価に影響することによる。

 このように、第一印象が悪くない場合、繰り返し接触することによって好意度や印象が高まる。これを単純接触効果という。
 ドラマのテーマ曲の人気が高まるのも広告に効果があるのも、この「単純接触効果」によるものだと考えられる。


<熟知性の原則>

 じっくりと話を聞く、一緒の出かけるなど相手のことを深く知るようになるにつれて、相手を好きになるという原則。

→単純接触効果を人に限定して適用した場合の原則

人がものや他人に対して好意をもつためには接触頻度が重要。


<単純接触効果>と<熟知性の原則>から接触頻度(回数)と人間の好意度に正の相関があることがわかる。

→会う回数の多い人を好きになる
→会う回数が少なくなると好意度が低くなる。


 心理学の地検から距離と接触頻度について次のような原則が導き出される。

 恋人同士が離れて暮らすようになり(遠距離)、会う機会が少なくなると(接触頻度の減少)、お互いの好意度が低くなり、別れへと至る。

→遠距離恋愛ではこの原則が実現する可能性(確率)がきわめて高くなる。

 それでは遠距離恋愛について社会学ではどのように考えることができるか?


 遠距離恋愛を社会学的に分析するとすれば、「交換理論」によって分析することができる。
 社会で行われる「交換」には

→経済的交換
→社会的交換

という大きく2種類がある。

<経済的交換>
商品の購入(貨幣→物品)
労働(労働→賃金)

<社会的交換>
会話、挨拶
祝儀と祝儀返し
感情の交換(愛など)

<社会的交換成立の条件>

1.他者と交換しなければ目的が達成できない場合

→他者の所有物を入手する場合
→他者の愛を勝ち取るために贈与や奉仕をする

2.目的達成を促進する手段として有効な場合

→キビ団子と交換で家来を得て、鬼退治する
→出世のために上司に贈り物をする

<経済的交換成立の条件>

1.等価性

:商品価値は変化するが、「等価」と考えられる(世間が妥当だと捉える)価値と交換すること

2.双務性

:相互に債務が課されていること(契約的債務)

等価性と双務性を合わせて「互酬性」と呼ぶ。

<社会的交換における互酬性>

 経済的な互酬性を社会的交換にあてはめることはできるだろうか。

 社会的交換では等価性も双務性も確保されない場合がある。
 社会的交換で行われる交換の価値は貨幣のような、世間の誰もが妥当だと捉える基準がない。
 社会的交換における責務は「契約的責務」ではなく、「道徳的責務」になる。つまり契約のような客観的基準ではなく、道徳という個人の価値観である。


 さて社会的交換成立によって何が生じるのか。社会的交換が成立することによって、「人間関係が大きく変化する」。しかしながらそこには互酬性の確保が必要になる。

 もし互酬性が確保できない人間関係の場合、非対称の人間関係になある。たとえば、地位の差、一方的な贈与の関係、偏った人間関係などである。


 対等な人間関係を成立し、それを維持するためには互酬性を確保した交換が必要である。つまり交換は人間関係維持の条件なのかもしれない。


 それでは遠距離恋愛を交換理論で考えてみたい。遠距離恋愛の多くは物理的に距離がある。したがって遠距離恋愛中に接触するためには(会うためには)、お互いにあるいは一方が大きなコストを支払わなければならない。つまり

恋愛関係の維持=接触のためのコスト

という関係が成り立つ。このコストを誰が支払うのか、遠距離恋愛では「互酬性」の確保がポイントになる。

<コストに合う価値があるのか>

 何度も高いコストを払って相手に会うことに見合う「何らかの報酬」(等価な報酬)があれば、遠距離恋愛であっても人間関係が維持される。ただしそれには互酬性の確保が前提となる。もし一方が全面的にコストを払うという形態では報酬に等価性が維持されない可能性がある。

<会わないこともコスト?>

 遠距離恋愛では「相手に会わない」(接触しない)ということもコストになる。長い間、会わないとコストが蓄積される。

→連絡し合うということが「報酬」になる。
→電話、手紙でのやりとりも「交換された報酬」になる。
→ただし以前は電話も手紙もコストがかかった。
 (現在は無料の通信手段がある)

☆こまめに連絡を取ることで、会わないコストに対する等価な報酬を獲得できる。

 遠距離恋愛において、「互酬性の確保」を前提とした「交換」関係が成立しないとき、恋愛関係は破綻する。

 ドラマの主人公が札幌空港で感じた「せつなさ」はなんだろう?


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