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2010映画の社会学第5講 メディア論的方法(4) [映画の社会学]

映画の社会学 第5講 メディア論的方法(4)
映画産業

 映画を映画館で興行することによる収入、つまり入場料金による収入の総計を「興行収入」(興収と省略する)と呼びます。興行収入から興行にかかった費用(設備費や人件費、その他の経費)を差し引いた収入を「配給収入」(配収と省略する)になります。これは一般に興収の50~70%です。配給収入から宣伝費、諸経費、配給手数料(配給収入の15~50%)などを除いた収入が「配分金」と呼ばれ、これが映画を制作した会社に配分され、おもに制作経費にあてられます。製作委員会方式では配分金は製作委員会で分配します。一般的な割合では、配分金は興行収入の25~50%程度になります。

 さてそれではここで映画産業を構成する3つの部門について説明します。

<製作部門>

* 作品の企画、内容、スタッフ集め、キャスティング、撮影場所の確保、映画化権の取得など
* 制作資金調達、製作方式の確定(製作委員会方式、ファンド方式など)
* Pre-Production:キャスト・スタッフ確定、ロケ地・スタジオ確保、予算調整、発表
* Production(制作):撮影(クランクイン~クランクアップ)
* Post-Production:編集、試写

<配給部門>

* 権利獲得:劇場上映権、配給権の獲得、興行後収入などについての契約
* 配給計画:公開規模、時期、宣伝予算、収支の策定
* 劇場確保:劇場のブッキング(フリーブッキング方式、ブロックブッキング方式)
* 宣伝広告:さまざまな方式での宣伝の企画・実施(予告、ポスター、前売り、完成試写など)
* その他 :日本語吹き替え、字幕制作、映倫審査など

<興行部門>

* 映画館での上映:
大手映画会社のチェーン系(東宝、松竹など)、単館系・ミニシアター系(個人や中小興行会社の経営:角川、日活など)、シネコン系(ワーナー、TOHOなど)
* 興行会社の実務業務:
入場チケットの販売・もぎり、場内の管理、クレーム処理、関連商品の販売、飲食物の販売、映写など


<制作費のリスク管理とリスクヘッジ>

 すでに説明したように、映画業界はテレビの登場、リクリエーションの多様化などによって入場者数が減少しました。人数が減少した分を興行部門では、値上げによって対処し、興行収入を確保(増加)してきました。しかしながら邦画は国内での興行が中心で、たとえ興収が確保されたとしてもハリウッド映画のように莫大な利益を得ることはありません。興行部門、配給部門は興行収入からある程度の利益を得ることができますが、製作部門はすでに制作費を出費していて、興収が配分されると制作費を確保できない可能性があります。そこでこうした制作費のリスクヘッジのために考案されたのが、「製作委員会方式」と「ファンド方式」です。

<製作委員会方式>

* 複数の企業が参加し、制作費を確保。
→「著作権」の共有、配分金の配分、興行後収入の配分
→リスクの分散
* 多様な広告媒体の確保
→出版社、テレビ局、IT関連企業の参加
* メディアミックスの容易化
→関連商品の開発と販売
→ライセンス関連事業の展開
* コンテンツ二次利用の容易化
→複数企業が参加することで二次利用が容易になる


<映画ファンド方式>

* 制作会社が制作費の50-75%確保できれば、残金はファンド(投資信託)から出資される方式→投資家が映画に投資するという方式 
* 収益分配:全収入のうち15%を配給手数料として制作会社が受取り、残りは出資比率と契約比率によって配分される。ローリスク・ハイリターンの可能性もある
* ハリウッド映画では一般的な方式。ハリウッド映画には興収が少ない場合に保証する保険もある

<映画ファンドによる作品>

* ジャパン・デジタル・コンテンツ信託株式会社
シネカノン製作『フラガール』(‘06)、『パッチギLOVE&PEACE』(‘07)
* 日本映画ファンド株式会社
『着信アリ2』(‘04)、『戦国自衛隊1549』(‘05)、
* JDC信託は2009年に失敗した。

<コンテンツの二次利用>

 1980年代までは、映画産業では映画が上映され、興行収入が確定した時点で、その映画に関わる業務(収益)は完了すると考えられてきました。つまり興収が収入のすべてだったのです。しかし映画業界を圧迫した原因となったテレビの普及、ニューメディアとして注目されたビデオの普及によって、自宅で映画を鑑賞するというライフスタイルが一般化することによって映画業界には大きな転機が訪れます。
 映画館で映画を公開した後の映画の再利用です。これを「コンテンツの二次利用」と呼びます。現在は映画を撮影する前の製作段階ですでに映画の二次利用が計画されるようになっています。つまり興収によって回収できなかった制作費をコンテンツの二次利用によって回収するシステムや、興収以外の収入源を確保する計画が行われているのです。作品によっては最初から映画館での興行を実行せず、オリジナルDVDだけを製作したり、特定のケーブルテレビ局や衛星放送局だけでの放映を行います。

 一般的なコンテンツ利用の流れとしては、次のようなものがあります。

劇場公開
  ↓
パッケージ販売(ビデオやDVD、ブルーレイ)
  ↓
CS放送、CATV放送
  ↓
地上波テレビ放送
  ↓
ネット配信

こうしたコンテンツ自体の二次利用だけでなく、コンテンツを利用した別作品の販売によって収入を得る場合もあります。たとえば「ゲーム化」、「小説・マンガ化」、「グッズ」などです。

 さて現在映画には次のような権利(ライセンス)が設定されています。

劇場上演権、非劇場上映権、公共ビデオ権、ホームビデオ権、商業ビデオ権、地上波放送権、CATV権、衛星放送権、PPV権、VOD権、IP放送権、CCTV権、付随的権利

 映画はこうした権利を販売して収益を得る「権利ビジネス」です。この権利をどのように扱うかによって商業戦略が変化します。

<ポケモン>

 さて今回題材に取り上げた「ポケモン」は映画を中心としたビジネスモデルではなく、ゲームソフトを中心として企画されたメディアミックスモデルです。そしてメディアミックスモデルを日本で最初に本格化したのは、ポケモンと同じ子ども向けのコンテンツでした。いわゆる大人向けのコンテンツではこうしたメディアミックスモデルは考えられていませんでした。
 ポケットモンスターは1996年ゲームボーイ用のゲームソフト、同時にポケモンカードゲームとして発売されました。当初の売れ行きは爆発的とは言えませんでした。ところが公式には150匹しかいないはずだけれども151番目の「幻のポケモン」がいるらしい、という都市伝説が広がり、発売後1年後もトップセールスを記録します。実はこれはゲームソフトのイースターエッグで、通常では登場しないポケモンでした(「ミュウ」)。それが偶然発見されてしまいました。この他にも開発者はいろいろなイースターエッグを仕込んでいて、それがゲームソフトの売り上げに影響しました。
 この人気を得てゲームを原作としたTVアニメが制作されることになります。ちなみにゲームを原作にした映画作品はけっこうおおく制作されています。これについてはまた別の機会に詳しく説明したいと思います。
 さてTVアニメ放映当初、子どもたちの間ではポケモンはけっこう知られていましたが、世間的にあまり知られていない存在でした。しかしながらある事件をきっかけにポケモンは世の中の多くの人、特に子どもの親世代に知られるようになります。いわゆる「ポケモンショック」です。
 番組を観ていた一部の子どもたちに光過敏性発作が生じました。その数があまりに多く、ポケモンの放送は中断し、番組打ち切りの話が出ていました。この危機的状況が番組の人気に拍車をかけることになり、この事件からポケモンの躍進が始まります。
 こうしてポケモンはゲームソフトを中心にしてTVアニメ、劇場映画、カードゲーム、マンガ、映像ソフト、グッズなどのメディアと連携した一大カンパニーを構成します。現在はポケモンの画像をライセンス提供するライセンス事業も大きくなり、全世界規模で業務展開されています。
 映画と各コンテンツの関係を観ると、映画はストーリーとしては独立しています。今回題材としてあげた作品については実はTVアニメの内容と関係するストーリーだったのですが、ポケモンショックの影響で映画のほうがTVアニメの内容を先取りする形になりました。そのため第3作目からはTVアニメには影響のないストーリーが作られるようになっています。しかしながら映画に登場するポケモンはゲームソフトと密接な関係をもつように設定され、さらに大枠としてはTVアニメとも世界観を共有します。また映画ではTVアニメでは扱えないような壮大で抽象的なテーマをじっくりと取り上げ、子ども向けの作品をこえた内容になっています。
 こうしてポケモンはすべてのメディアが連携して全体の売り上げに貢献する仕組みになりました。後はポケモン年表を見て考えてみてください。

参照

 それでは第1回目のリポートの案内をします。課題は次の通り。

「映画館で観る映画と自宅で観る映画の相違点と共通点」

締め切り:2010年11月11日(木曜日)授業開始時間まで

提出方法:MICCSあるいは電子メール
電子メールでの提出先は講義中に紹介したアドレス

注意事項:
小論文にすること。 感想文や作文ではない。
箇条書きやメモ書きの様式ではなく、文章で表現すること。
分量:800字以上


分量制限があるので、注意してください。

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