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2009社会学入門 第2講 行動と行為(1) [社会学入門]

社会学入門2009 第2講 行動と行為(1)

 さていよいよ2009年度社会学入門の始まりです。今回の教材は、

「東京ラブストーリー」第2話
脚本:坂元裕二
演出:永山耕三、本間欧彦
1991年フジテレビ系列で放送

です。このドラマによってフジテレビの月曜日9時枠が「月9」と呼ばれ、トレンディドラマ枠として定着しました。そして「月曜日の夜、街から女性が消えた」という伝説さえ生まれることになります。
 ちなみに脚本を書いた坂元裕二は数々のヒット作品を手がけています。たとえば「同・級・生」(1989)、「愛し君へ」(2004)、「西遊記」(2006)、「トップキャスター」(2006)など。特に織田裕二との相性は良い方で、「太陽と海の教室」(2008)でも相性の良さを発揮していました。

 「東京ラブストーリー」は1991年の第1クールで放送されました。今から約20年前の作品です。こうした古いドラマを見る、ということを社会学的に考えるとどのように楽しめるのでしょう。最初にそのことについて触れてみたいと思います。
 この作品は初期のトレンディドラマです。「トレンディ」という言葉が使われているとおり、トレンディドラマでは新製品や最新機器が使われます。トレンディドラマを見ていると、何がその時代の最新機器なのかがわかります。「東京ラブストーリー」第1話には携帯電話が登場します。当時、一般の人には携帯電話は普及していません。業務用として一部の人たちが利用していました。ご覧になればわかるのですが、携帯電話は巨大で、自動車電話は「弁当箱」と呼ばれていました。第1話にも登場するコードレス電話機はようやく一般に普及しはじめた頃です(1987年に販売自由化)。ちなみにNTTの設立は1985年です。
 
 次にしぐさです。現在ではあまりしないようなしぐさが登場します。たとえばこのドラマの中ではリカと完治は電話をかけるしぐさをして会話をはじめるシーンがあります。リカは「ピポパ」と言って電話をかけるしぐさをしますが、完治は「じーじー」と言って電話をかけるしぐさをしています。リカはプッシュ式で、完治はダイヤル式の電話を使ってきたということです。NTT設立後もしばらくは黒電話を使っている家庭が多く、特に愛媛などの地方ではプッシュ式の電話はまだまだ普及途上でした。

 このドラマでは東京各地がロケ地になっています。ご存じの通り、東京という街は数年で激変します。そうした街の変化を読み取ることができます。
 ドラマには制作者の読み取った時代が反映されています。ドラマ制作者は時代の最先端にいると感じていて、自分たちの作品が社会に大きな影響を与えると信じています。そうした制作者が感じた時代の性質をドラマから読み取ることができます。この作品では、ところどころにバブル経済末期の時代が表現されていました。
 時代の最先端にいるということは、前述したように最新機器を登場させるだけでなく、最新ファッションを扱うということにも表れます。トレンディドラマを分析することによってファッションの推移、流行を読み取ることができます。

 この他、古い時代の常識を感じることもできます。このドラマに登場するPCは文字だけでアイコンはありません。データのやりとりはFloppyでした。また社内やレストラン、様々な場所で登場人物たちが喫煙しています。この時代は喫煙者の割合が多く、分煙や禁煙運動はほとんど行われていません。
 社会の変化を研究対象の一つにする社会学にとってドラマは非常に重要な材料です。

 今回扱うテーマに関連するシーンを取り上げていきます。

①OP 完治のセリフ「何をどうやったらあんな所に靴が・・・」
②OP リカのセリフ「さっき逃げようとした。私が声をかけなかった知らんぷりしようとしたでしょ。」
③OP 完治は昨晩リカがキスをした理由を聞く
④完治の部屋のシーン 完治が出ていった後、リカは三上に一生懸命に話しかけています。何をしているのでしょう。
⑤完治は「じゃあ、何であんなことを・・・」という質問を三上とさとみにしている。

 この5つのシーンに共通することは何でしょう。この5つのシーンの登場人物に共通することは、人間の行動や生じている事象を因果関係、「原因-結果」の図式で捉えると言うことです。
 事象を因果関係のなかで捉えるという典型的なシーンが一番最初にあげたシーンです。オープニングでリカが木の上にのっている靴をとろうとしています。それをみた完治は「何をどうやったらあんなところに靴が・・・」と言っているわけですが、これは「木の上に靴がある」という事象を「結果」と捉え、その原因があるということを前提にしているということを示しています。私たちは成長する中で、現象を「原因と結果という図式」を獲得していくのです。このシーンでは天気占いが原因になっています。
 同時にこの原因と結果という図式を使うことで、「その大きなカバンの中に何が入っているのか」という質問を引き出します。リカは返事として「愛と希望」と答えるのですが、この会話は後のシーンの布石になっています。こうした自然な会話が坂元という脚本家の力量を示します。

 リカが靴をとろうとしているシーンで、完治はリカを無視して会社に行こうとします。このことをリカは「私から逃げようとした」と指摘しました。そしてその後、「あ~~あ、会いたくなかった」というように完治の本音を読み取ります。これは完治の行動を原因を推測していると言うことです。
 同様に完治はリカが前日の夜にキスをした理由を推測します。三上とサトミがキスしているところを診たから、同情でキスをした、それとも恋愛。こうした相手の本音を推測するのは、自分自身が何かするときに考えていることがあるからです。

 完治の部屋でリカが三上に話をしています。その内容は三上の本音です。決して言葉では語られませんが、行動として表れる三上の本音を三上自身に突きつけ、事実を見つめさせています。
 人間は必ず何かを考えて行動します。そしてその人間の行動の大部分には行動を行わせる何らかの「動機」や「原因」があります。そしてその動機や原因については本人も気がついていない場合があるのです。このシーンでは三上自身、リカが三上の本音を語るまで、自分の本音に気がついていません。リカに指摘されることではじめて三上を自分の行動の意味を知るのです。

 このように人間の行動には「動機」があり、私たちは原因と結果という図式でその行動を捉えるのですが、他人の行動については表面で観察できる行動からしか、その動機を推測することはできません。三上とサトミがキスしているシーンでは、道を隔てた場所から見ている完治には、二人が合意の上でキスとしているように捉えられました。三上が一方的にサトミにキスをしたとは考えていません。だから好きかどうかよくわからないと言っていた二人がキスとしているのを見て、その動機を探るべく「じゃ、何であんなこと・・・」と尋ねるのです。けっして人の本音が顔に書かれることはありません。

 さてここまで行動という言葉を簡単に使ってきましたが、ここで社会学では行動をどのように捉えているのかを説明しておきましょう。

行動(behavior):
体を動かす、話をする、ものを食べるなどの生物の活動や行いすべて。不随意的な反応、いわゆる反射的な行いも含まれる。

他人が観察できるすべての振る舞いを行動と捉えています。
 一般に同種の生物の基本的行動パターンはすべて同じなります。それでは生物の行動パターンとはどのようなことをさすのでしょう。一般に生物の行動パターンは次のように捉えることができます。

刺激(原因)→反応(結果)

何か刺激があるとそれが原因となって、結果としての反応があるということです。たとえば生物はエサが与えられると食べます。光を向けられると光源に向かって走る、あるいは飛んでいきます。同じ種の生物は基本的にすべて同じように行動します。

 それでは人間はどうでしょう。人間は同じ刺激に対して全員が同じ反応を示すことはありません。たとえばリカが完治に駆け寄っていって「好き」とさけぶシーンがあります。リカが「好き」という「刺激」に対して完治は少し戸惑うようなはにかむような反応をしています。しかし三上に同じ刺激を与えたら、おそらく「にやりと笑う」反応をするだろうと推測できます。
 逆にまったく同じ反応が示されたとしても、それが同じ「刺激」によって生じているとは限りません。たとえば完治と三上が同じように喜んでいたとしても、その刺激も同じではありません。
 人間は刺激が与えられた時に、その刺激の意味を考え、自分なりの動機付けが行われてはじめて何らかの反応を示します。その意味づけや動機付けが異なるため、反応として現れる行動にも相違が生じるのです。

 このように見てくると、人間の行動は大きく二つに分けられることがわかります。一つは「意識しないで行われる行動」であり、もう一つは「意識して行われる行動」です。「意識しないで行われる行動」というのは、刺激に対して何も考えずに身体が反応してしまうような行動で、いわゆる反射的な行動をさします。多くの生物は遺伝子のレベルで行動のプログラムが定められているため、大部分の行動がこうした「意識しないで行われる行動」になります。
 一方、「意識して行われる行動」は刺激に対して自分なりに何かを考えて行動する場合のことを指します。

 こうした意識して行われる行動、つまり目的や意図などがある行動を社会学では、「行為」(act)と呼び、他の行動と区別します。この行為の中には個人のレベルでは意図や動機がない行為もあります。また行動のように観察できない行為も含まれます。つまり「何もしない」という行為を行う場合があるということです。
 行為は行動に含まれますが、一部の行為は行動とは呼べない面があるということになります。

 人は自分自身が何らかの意図や動機をもって行為しているため、他人も同じように意図があると考えます。しかし人によって「動機」が異なるということを経験的に知っているため、相手の行動の意味を理解するためには相手の動機を推測する必要があります。あるいは相手の行動の意図を知るために、相手の真意や本音を質問しなければなりません。
 こうした相手の動機や意図を推測するのは、相手を理解し、コミュニケーションを図るために最低限必要な行為です。私たちはこうした相手の動機を推測するという行為を行うことによって、社会生活を円滑におくろうとするのです。

 次回は行為の図式についてもう少し詳細に検討してみたいと思います。

 授業中、「同・級・生」にキムタクが出演しているという発言をしましたが、それは間違いです。正しくは「あすなろ白書」というべきでした。訂正してお詫びします。



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