社会学入門　第2講　行動と行為（１）：Socio-Awl：SSブログ

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社会学入門　第2講　行動と行為（１）　[社会学入門] [編集]

社会学入門　第2講　行動と行為（１）

　今回題材として用いるのは、関西テレビ制作でフジテレビ系列で放送された『僕の歩く道　第1話』です（2006年10月10日～12月19日）。この作品は主演草彅剛、脚本橋部敦子による僕シリーズ3部作－『僕の生きる道』（2003年冬）、『僕と彼女と彼女の生きる道』（2004年冬）の完結作にあたります。
　ダスティン・ホフマンやショーン・ペンとは比較になりませんが、草彅剛は自閉症の役をうまく演技していると思います。後の授業でお話ししますが、役者が役柄をうまく演じるというのは、社会学的にきわめて重要なことです。
　さて、今回からは「行動と行為」というテーマで議論していきます。手足を動かしたり、話をしたり、ものを食べたりといった人間の活動や行いの全般を「行動（behavior）」と言います。この言葉は人間に限らず動物やモノについても用いられることがあります。
　この行動は大きく、「意識して行われる行動」と「意識しないで行われる行動」の二つに分類することができます。そして「意識して行われる行動」を社会学では「行為（act）」と呼んで、他の行動とは区別します。
　前回の講義で説明したように、社会学では人間の活動全般を研究の対象にしますが、その最小単位は「行為」です。人間が意識しない行動全般については、研究の対象とはしません。なぜなら人間が意識しないで行っている行動を研究しても、その意味を理解することができないからです。意味が理解できない行動を研究しても、社会学にとっては何も得るものはありません。
　それでは社会学では「行為」をどのように分析するのでしょうか？　今回のドラマの中のシーンをもとにして考えてみたいと思います。まず注目したいのは、草彅演じる大竹輝明が動物園に就職して（試行期間）初めての仕事をする場面です。
　この場面では、輝明は何もしないで「立ったまま」です。仕事を指示した三浦はわけがわからず、都古（みやこ）を呼びに行きます。輝明の様子を見た都古は三浦にどのように指示をしたのか、と聞いています。さらに仕事の内容を「具体的に」指示するように言います。「掃除をする」という言葉は抽象的で輝明には理解できないのです。私たちは普段あまり意識しませんが、行為にはきっかけが不可欠です。

きっかけ　→　行動

この場面では、輝明は三浦から「ここからあそこまでの道にある枯れ葉をほうきで掃く」というように具体的に「命令」された「から」、掃除という行動を起こしました。たんに「掃除をする」という言葉では、輝明にとっては行動を起こすための「きっかけ」にはならないのです。
　同じように私たちの行為も、何かのきっけかがあって初めて具体的に行動を起こしています。このきっかけは一般に、何かをしたいという「動機」や行うべき「目的」と言い換えることができます。

「目的（動機）」→行動

これが行為の基本的な図式です。このドラマでの輝明の行為はすべてこのように具体的な目的や動機が明らかになっています。たとえば輝明はツール・ド・フランスの過去の優勝者の名前を唱えることがあります。これは輝明自身が感じたストレスを「解消するため」（目的）に行われます。

「ストレスの解消」→「優勝者の名前を唱える」
あるいは
「ストレスを感じた」→「優勝者の名前を唱える」

という輝明の行為の図式を知っている人は、輝明を慰めようとします。

　このように行為が、「目的（動機」→「行動」という図式になっているととらえることによって、私たちは目に見える行動によって、その人の行動の「意味」を理解することができます。
　もちろん私たちはすべての行為の目的や動機を、自分自身が明確に意識しているわけではありません。たとえば輝明に掃除をするように指示した三浦は、掃除をする目的を明確に意識していないと思います。たんに習慣的に、あるいは自分自身が見習いの段階で掃除をしていたから、掃除をしているにすぎないのです。このように私たちの行っている行為の一部は、習慣的に行われていて、明確な目的を意識していないのです。
　しかしそれが「行為」という枠組みでとらえられる行動であれば、必ず何らかの目的や動機があります。少なくとも社会学ではそのように考えます。そして人間の行動の意味を理解するのです。
　もちろん人間の行為はすべてこのように単純な図式でとらえられるわけではありません。このことについては次回の講義で議論します。