社会学入門2012 第2講 行動と行為(1) [社会学入門]
社会学入門2012 第2講 行動と行為(1)
今回の教材
「電車男」(第1話)
脚本:武藤将吾
プロデューサー:若松央樹、川西琢
演出:武内英樹、西浦正記
2005年フジテレビ系列で放送
私たちは日常生活の中でとくに「社会」というものを意識することはありません。社会というものが存在するかどうかさえ意識することはないでしょう。しかし事件や事故、異変といった非日常的な状況が生じた時、私たちは「社会」が存在していたことを強く意識するようになります。
今回ドラマの舞台は電車です。そして電車の車内は公共空間と呼ばれています。公共空間とは、特定の人間に限定されないで、誰もが自由に出入りできる場所のことです。つまり公共空間には互いに見知らぬ人(stranger)が一緒にいます。電車は切符さえ購入すれば自由に乗車できる可能性のある空間なので、公共空間です。
電車の中には一般的に、本や雑誌、新聞などを読む人、携帯電話を操作している人、ゲームをしている人、音楽を聴いている人、寝ている人、ぼんやり車外をみている人などがいます。家族や友人、恋人などと一緒にいないかぎり、人間同士の関わりあいはほとんど存在しません。つまりお互いに無視し合って、人は孤立した状態にあります。
しかし・・・。ある出来事をきっかけにしてその状態が崩れます。
日本民営鉄道協会HPには10年以上前から電車内での迷惑行為ランキングという情報を提供しています。ここでいう「迷惑行為」とは何でしょう。
迷惑行為とは「一般に多くの人が不適切だと感じる行為」のことです。一般に迷惑行為にリストされる項目には犯罪行為(痴漢やすりなど)は含まれていません。むしろそうした法律のような成文化された項目ではなく、常識だと思われている事柄に反する行為のことです。そしてランキングにあがった項目の大部分は本来は関わり合うことのない他人同士が何らかの形で互いに関わりが生じる可能性のある行為です。
公共空間において一般に不適切だと考えられる迷惑行為が生じたとき、人びとの前に普段は意識しない「社会」が立ち現れます。今回のドラマでは電車内での迷惑行為が、それまでは個々人が孤立状態にあった電車内に社会を出現させました。
さて『電車男』での迷惑行為について考えてみましょう。ここは2007年と2008年に迷惑行為ランキング2位、2009年には9位であった「よっぱらい」の行為が迷惑行為になります。泥酔した男性が他の乗客に絡んでいきます。普段は知人や友人、家族でなければ乗客同士が絡むことはありません。酔っぱらいが他の乗客に絡むという事件が発生することによって酔っぱらいと乗客の間だけでなく、乗客と乗客同士にも関係性が生じます。普段はチラ見するだけの関係で、具体的に絡むことはないのですが、事件が発生することによって他の乗客を助けるという行為が行われました。
『電車男』に登場する他の非日常的な出来事(事件)としては次のような出来事があります。
電車男と沢崎果歩(サトエリ)との出会い
電車男が電車に乗車する前の階段
↓
階段で沢崎にぶつかる(事件)
↓
荷物の中身がばらまかれる
↓
電車男が沢崎の化粧ブラシを返す
↓
ブラシはゴミ箱へ
【ドラマに登場した社会とは?】
人間同士の間に「相互行為」(interaction)が生じるとき、そこに「社会」が存在すると考えられる。酔っぱらいと乗客、電車男と沢崎、電車男とエルメス、乗客と乗客など。他人同士で何も相互行為が生じていない場合には、そこに社会はありません。
たとえば血液型A型の人びとの集まりは「集合」ではあっても「社会」ではありません。しかし血液型A型協会が設立して会員活動が始められればそれは単なる集合ではなく、社会になります。
【社会が何もないように見える電車内に社会はあるのか?】
電車男が車内ではじめてエルメスを見たとき、彼は彼女をじ~っと見ました。その視線に気づいたエルメスが電車男を見返したとき、電車男は視線をそらしました。
酔っぱらいがいろいろな乗客に絡み出したとき、まだ絡まれていない乗客は酔っぱらいへの視線をそらしています。
これらの行為の意味は何でしょう。
【公共空間でのルール】
公共空間には次のようなルールがあります。
「見知らぬ人には声をかけない、じっと見つめない、干渉しないであたかもそこに存在しないかのように行動する」
これをE.ゴフマンは「儀礼的無関心」と呼びました。これは相手の存在の尊厳を守る行為であり、無関心を装う行動(演技)です。相手をモノだと認識して無関心になることではありません。
心理学的には相手のパーソナル・スペースを尊重する行動になります。
公共空間では相手に関心を持った行動(ガン見する、接触する、声をかける、撮影するなど)は「不適切な」行動だと考えられます。逆に相手の存在を無視した、つまり相手がそこに本当に存在していないと認識している行動も「不適切な」行動だと考えられるのです。
だから次のような行動は「迷惑行為」なのです。
電車内での化粧
ところかまわず座り込む
周りを無視して騒ぐ
周りを配慮しないでプレイヤーの音量を上げる
社会=人間同士の相互行為
次回は「行為」について考えてみたいと思います。
今回の教材
「電車男」(第1話)
脚本:武藤将吾
プロデューサー:若松央樹、川西琢
演出:武内英樹、西浦正記
2005年フジテレビ系列で放送
私たちは日常生活の中でとくに「社会」というものを意識することはありません。社会というものが存在するかどうかさえ意識することはないでしょう。しかし事件や事故、異変といった非日常的な状況が生じた時、私たちは「社会」が存在していたことを強く意識するようになります。
今回ドラマの舞台は電車です。そして電車の車内は公共空間と呼ばれています。公共空間とは、特定の人間に限定されないで、誰もが自由に出入りできる場所のことです。つまり公共空間には互いに見知らぬ人(stranger)が一緒にいます。電車は切符さえ購入すれば自由に乗車できる可能性のある空間なので、公共空間です。
電車の中には一般的に、本や雑誌、新聞などを読む人、携帯電話を操作している人、ゲームをしている人、音楽を聴いている人、寝ている人、ぼんやり車外をみている人などがいます。家族や友人、恋人などと一緒にいないかぎり、人間同士の関わりあいはほとんど存在しません。つまりお互いに無視し合って、人は孤立した状態にあります。
しかし・・・。ある出来事をきっかけにしてその状態が崩れます。
日本民営鉄道協会HPには10年以上前から電車内での迷惑行為ランキングという情報を提供しています。ここでいう「迷惑行為」とは何でしょう。
迷惑行為とは「一般に多くの人が不適切だと感じる行為」のことです。一般に迷惑行為にリストされる項目には犯罪行為(痴漢やすりなど)は含まれていません。むしろそうした法律のような成文化された項目ではなく、常識だと思われている事柄に反する行為のことです。そしてランキングにあがった項目の大部分は本来は関わり合うことのない他人同士が何らかの形で互いに関わりが生じる可能性のある行為です。
公共空間において一般に不適切だと考えられる迷惑行為が生じたとき、人びとの前に普段は意識しない「社会」が立ち現れます。今回のドラマでは電車内での迷惑行為が、それまでは個々人が孤立状態にあった電車内に社会を出現させました。
さて『電車男』での迷惑行為について考えてみましょう。ここは2007年と2008年に迷惑行為ランキング2位、2009年には9位であった「よっぱらい」の行為が迷惑行為になります。泥酔した男性が他の乗客に絡んでいきます。普段は知人や友人、家族でなければ乗客同士が絡むことはありません。酔っぱらいが他の乗客に絡むという事件が発生することによって酔っぱらいと乗客の間だけでなく、乗客と乗客同士にも関係性が生じます。普段はチラ見するだけの関係で、具体的に絡むことはないのですが、事件が発生することによって他の乗客を助けるという行為が行われました。
『電車男』に登場する他の非日常的な出来事(事件)としては次のような出来事があります。
電車男と沢崎果歩(サトエリ)との出会い
電車男が電車に乗車する前の階段
↓
階段で沢崎にぶつかる(事件)
↓
荷物の中身がばらまかれる
↓
電車男が沢崎の化粧ブラシを返す
↓
ブラシはゴミ箱へ
【ドラマに登場した社会とは?】
人間同士の間に「相互行為」(interaction)が生じるとき、そこに「社会」が存在すると考えられる。酔っぱらいと乗客、電車男と沢崎、電車男とエルメス、乗客と乗客など。他人同士で何も相互行為が生じていない場合には、そこに社会はありません。
たとえば血液型A型の人びとの集まりは「集合」ではあっても「社会」ではありません。しかし血液型A型協会が設立して会員活動が始められればそれは単なる集合ではなく、社会になります。
【社会が何もないように見える電車内に社会はあるのか?】
電車男が車内ではじめてエルメスを見たとき、彼は彼女をじ~っと見ました。その視線に気づいたエルメスが電車男を見返したとき、電車男は視線をそらしました。
酔っぱらいがいろいろな乗客に絡み出したとき、まだ絡まれていない乗客は酔っぱらいへの視線をそらしています。
これらの行為の意味は何でしょう。
【公共空間でのルール】
公共空間には次のようなルールがあります。
「見知らぬ人には声をかけない、じっと見つめない、干渉しないであたかもそこに存在しないかのように行動する」
これをE.ゴフマンは「儀礼的無関心」と呼びました。これは相手の存在の尊厳を守る行為であり、無関心を装う行動(演技)です。相手をモノだと認識して無関心になることではありません。
心理学的には相手のパーソナル・スペースを尊重する行動になります。
公共空間では相手に関心を持った行動(ガン見する、接触する、声をかける、撮影するなど)は「不適切な」行動だと考えられます。逆に相手の存在を無視した、つまり相手がそこに本当に存在していないと認識している行動も「不適切な」行動だと考えられるのです。
だから次のような行動は「迷惑行為」なのです。
電車内での化粧
ところかまわず座り込む
周りを無視して騒ぐ
周りを配慮しないでプレイヤーの音量を上げる
社会=人間同士の相互行為
次回は「行為」について考えてみたいと思います。
2012-04-19 19:15
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