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映画の社会学2011第12講 批評的方法(5)知的触媒として扱う方法(1)

映画の社会学 第12講 批評的方法(5) 知的触媒として扱う方法(1)

<課題作品>

『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』(1977年公開)

監督:舛田利雄
脚本:藤川桂介、山本暎一
音楽:宮川泰

<アニメーション市場の拡大>

 『宇宙戦艦ヤマト』はアニメーション市場の拡大に寄与しました。現在でもそう考えている人が少なくありませんが、1970年代にはアニメーションは子ども向けの作品だと考えられていました。そのためそれまでのアニメーション作品の大部分の主人公は子どもに設定されています。視聴者と同じ年齢層が主人公に設定されているということです。
 それに対し『宇宙戦艦ヤマト』では主人公古代守も森雪も島大介もそして大部分の登場人物が18歳前後の年齢に設定されています。子どもの登場人物はほとんど登場しません。一方、艦長、機関長、船医は高齢者になっています。このように設定されたアニメーション作品は当時、ほとんどありません。このことによって作品の対象となる視聴者の年齢層を拡大することに成功しました。実際、映画公開時の観客の年齢層はアニメーション作品にすれば非常に高くなっています。
 『宇宙戦艦ヤマト』はアニメーションは幼児向け(子ども向け)というイメージを払拭することに寄与したのです。こうしたアニメーション市場の拡大へとつながっていきます。この作品以降、思春期の少年や少女を主人公にした作品が増えていきます。

<ヤマトの企画意図>

 ヤマトを企画した西崎プロデューサーは次のように述べています。

「公害、物価高、オイルショック以後一気にあらわれた産業社会のゆがみ。それは、驚異的な経済成長を遂げた日本の社会構造を、根底からゆり動かすものであった。産業社会の歯車となってしまった人間。精神面での孤立感は、避けようもない事実としてあらわれた。・・・私たちは、ただの歯車ではない。ものとは次元の違う『人間』なのだ。人間はどんなことがあっても夢と希望をすててはならない」(『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』パンフレットより)

 第二次世界大戦に敗戦した日本の大部分は焦土と化し、国土はがれきと化しました。アメリカに占領され、アメリカの指導の下、政府は復興と経済的な勝利を目標にかかげ、「国富」を終戦した産業振興策を進めていきました。池田首相の所得倍増論、田中首相の列島改造論がそうした施策を支えた代表的な思想です。そうした産業振興策の結果、日本は実質経済成長率10%を前後する高度経済成長を果たしました。
 しかし1973年中東に勃発していた中東戦争の影響で石油の輸入が滞る、いわゆるオイルショックが発生。これを契機にして驚異的な勢いで成長していた経済成長はストップし、一挙に不況へと突入しました。
 
 不況の時代を迎えてはじめて、日本は産業社会の弊害である環境汚染、公害病、ゴミ処理問題、あるいは急激な地下水のくみ上げによる地盤沈下などに気がつくようになります。経済成長の影に隠れていた社会問題を意識するようになったということです。社会ではこの問題にどのように取り組んだらいいのか、将来日本はどんな風になってしまうのか、真剣に考えなければならなくなりました。
 こうした時代の中『宇宙戦艦ヤマト』は製作されました。同時期に日本の危機、地球の危機を扱った作品は少なくありません。

 『宇宙戦艦ヤマト』ではこの切羽詰まった社会的危機感を「地球滅亡まであと●●●日」と表現しました。一足はやい終末観に包まれていたのです。

 『宇宙戦艦ヤマト』の物語にはこうした社会的危機感がうまく盛り込まれています。

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