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映画の社会学2011第2講 メディア論的方法(1) [映画の社会学]

映画の社会学 第2講 メディア論的方法(1)
映画と演劇の比較

題材:
原作:三浦しをん『風が強く吹いている』(新潮社)

舞台:2009年初演
   鈴木裕美演出、鈴木哲也脚本
   アトエリ・ダンカン、イープラス企画・製作

映画:2009年公開
   大森寿美男脚本・監督

【観客から見る演劇の特徴】

・臨場感
 ・現場性
 ・一回性
 ・相互性
・共有感(共犯性?)
・共振性
・時間的限定性
・高価格性

<臨場感ー現場性>

 演劇ではたとえば強盗が目の前で生じているように、観客の目の前で物語が進行します。それは誰かから話を聞いたことでもなく、過去に生じた出来事でもありません。自分自身が直接体験していることです。演技者の演技を目の前で「生」で見聞きし、感じています。それはその現場にいるという感覚で、いわゆる「ライブ感」です。コンサートをテレビではなく、会場でみているのと同じような感覚でしょう。

<臨場感ー一回性>

 歴史上の事件が1回だけの出来事であるのと同様に、その時その場で見聞きする舞台はそのとき1回きりの出来事です。二度と同じ事は生じません。つまり再現性がないということです。同じ舞台で、同じセリフで、同じ相手に舞台が行われているので、毎回同じ内容になっていると一般的には考えられます。しかし実際には公演日の天候、公演時間、演技者の体調、劇場の「雰囲気」、その人の演技者のやりとりなどによって舞台の内容が変化します。人間がやることなので、同じ舞台でも再現性はありません。

<臨場感ー相互性>

 舞台は舞台の上に立っている役者によってつくられます。しかし実はその日の舞台は舞台の上の演技者だけによってつくられているわけではありません。舞台はそこで演じている演技者とそれを観ている観客との相互作用によって作られる、という側面があります。
 たとえば観客が無反応であった場合、演技者はきちんと演技できない場合があります。『8時だよ。全員集合!」は舞台の上から観客に向かって声をかけています。もし観客が無反応であったら、おそらく話を先にすすめることができません。あの番組ではいかに観客を舞台に巻き込んでいくか、が重要になります。そして舞台の演技者と観客とが一緒になって舞台を作り上げていくのです。

<共有感>

 演劇には特有のルールやお約束があります。劇団特有のルールがある場合もあります。観客の多くはそのことを出演者と共有することによって、より深く演劇を楽しむことが出来ます。
 この共有感は舞台の特徴である一回性とも関係しています。観客と演技者がつくる雰囲気はその場でしか形成されません。

<共振性>

 舞台の雰囲気は観客と演技者との相互作用だけでなく、その場の雰囲気を共有した観客同士でも形成されます。その場にいる観客同士の感情が共振して、舞台の雰囲気が作られるのです。

<時間的限定性>

 映画の場合、公開期間中は毎日何回も放映されています。シネマコンプレックス形式の劇場では、複数の映画が同時に上映されます。観客はある程度自分の時間的な都合に合わせて、自分の好きな映画を鑑賞できます。
 演劇の場合、公演の日時が映画よりも限定的で、人気のある劇団では自分の都合にあわせて演劇を鑑賞することができない場合があります。つまり演劇鑑賞にはそれなりに鑑賞したいという意欲が必要だということです。

<高価格性>

 現時点では劇場の入場料金と演劇の鑑賞料金(入場料金)を比較した場合、座席によって差はありますが、演劇の鑑賞料金の方がはるかに高額になっています。一般に人は高額なものほど大切に扱いますが、同じことが鑑賞料金にもいえます。鑑賞料金の高い演劇の方が料金を支払った観客は集中して鑑賞します。特に自分で料金を支払った場合は、多少退屈な場面があっても必死になって鑑賞しようとします。



【映画は演劇の特徴を継承したのか?】

 映画は演劇にかわる娯楽として一般庶民に普及しました。それでも映画は演劇の特徴を継承したのでしょうか? 演劇と映画を比較した時、映画独自のメディアとしての特徴が現れます。

<継承したものー共振性>

 演劇と同様に映画館で上映される映画でも観客同士の共振性は存在します。ホラー映画やいわゆる泣ける映画では、恐怖が共振したり、悲しみが共振したりします。
 劇場での感情がうまく共振して大きな感動を生むことがあれば、作品への評価が高まります。その結果、リピーターが増加したり、その観客が別の観客への広告塔になる可能性があります。テレビでのCMではこうした効果をねらった映像が利用されるようです。

<継承しないことー共有感>

 観客同士の共振性はありますが、観客と演技者との共有感はありません。映画は観客に対する一方通行的なメディアだからです。ただし観客が一方的に出演者に対して共有感を持つことはあります。これはファン心情といってもいいでしょうし、あこがれの感情と言ってもいいかもしれません。観客が演技者に対して共有感を抱いた場合には、出演者と同じような行動や態度をとる場合があります。

<継承できないことー相互性>

 映画はいわば録画したものを再生しているだけで、事件が目の前で起こっているというような「臨場感」はありません。特に相互性はありません。もし映画の出演者と観客が映画を通して相互に影響し合って変化したら、それはファンタジーです。映画の前で観客が反応してもそれに対して映画の中の出演者の演技が変わることはありません。映画撮影中も出演者は観客の反応を確かめることは不可能です。

<継承できないことー一回性>

 映画は再現性が高いメディアです。何回目観ても、同じ演技、同じ内容です。状況によって内容が変わることはありません。ただし鑑賞する時の観客の心情によって、映画から受けるメッセージが変わることはあります。

<継承できないことー現場性>

 観客の目の前で物語が進行するわけではないため、現場性はありません。そのまで自分が経験しているようなリアリティもありません。しかし映画は演劇のように「舞台」という場所に限定されません。そのために演劇とは異なった「リアリティ」や「ライブ感」を生み出すことが可能です。

<映画的リアリティの創造>

 演劇は舞台でしか演技できません。しかし映画は舞台ではなく、私たちが生活している、私たちの「現場」を舞台にして撮影することができます。いわゆるロケーション撮影です。ロケ撮影では、舞台のように狭い空間ではなく、広い空間を利用することができます。自分たちの生活の場で撮影されるのですから、その現場を知っている観客には強い親近感が感じられます。このようにして映画では演劇とは異なった映画独特のリアリティが創造されます。
 演劇では観客がそれが何かがわかればいいので、舞台にきちんとしたセットを組む必要はなく、絵でもかまいません。しかし映画ではそうした背景が使われることはまれです。映画は演劇とは異なった臨場感が必要だということです。
 そういう視点から考えると、映画では「見せる」演出が重要で、演劇では「聞かせる」演出が重要になるということがわかります。

 映画ではロケ撮影という手法によって臨場感やリアリティを創造するのですが、ロケ撮影は欠点の多い手法です。一番大きな問題は天候です。天候によっては撮影ができません。あるいは思ったような光や影ができないこともあります。このほか、撮影地によっては移動に時間がかかり、場合によっては宿泊も必要になります。出演者、スタッフが多い場合には、交通費や宿泊費、食費などでかなり費用がかかります。
 こうした欠点のないのがセット撮影です。セットだけでは天候は表現できませんが、CGを組み合わせれば想像通りの背景が表現できます。極端に言えばCGがあればセットはほとんど必要ありません。
 CG技術の進歩によってそれまでは実写映画は不可能といわれていた様々なファンタジー作品が映画化されるようになりました。あるいはアニメーションによってでしか表現できなかった作品もすべて実写化できるようになっています。


<演劇とは異なる映画による観客へのアプローチ>

 演劇では舞台全体で演技が行われることがあります。その場合、観客はどこを観たらいいのかよくわかりません。しかし映画では注目させたい部分を「見せる」ことができます。これは映画というメディアの大切な特徴です。だから映画では「画面構成」、映画のフレームのどこに何を配置するのかが重要です。多くの監督が絵コンテを描くのはそのためです。

 映画は演技者の体力に関係なく、何度でも同じ作品が上映されます。さらに演技者の年齢、天候、時代の変化など全く無関係に作品されます。演劇だと演技者は時間の経過とともに年齢が高くなって、演技の内容が変わっていきます。さらに機材さえあれば、どこでも上映できるという偏在性があります。とはいえ、テレビやビデオ、DVDといった媒体が登場するまでは、フィルムがなければ上映できず、上映のためには専門の機材操作者が必要でした。現在では、ビデオやDVDによって家庭で、あるいは車内で誰でも上映できるようになっています。それだけ再現性と偏在性がたかまったということです。

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