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2009社会学入門 第13講 予言の自己成就 [社会学入門]

社会学入門2009 第13講 予言の自己成就、ラベリング理論

 今回はテレビドラマではなく歌を対象にしたいと思います。

 まず最初に次の歌を対象にしましょう。

「未来予想図II」/DREAMS COME TRUE
作詞・作曲:吉田美和

 この歌の中に

「ずっと心に描く 未来予想図は
 ほら思ったとおりに かなえられてく」

という歌詞があります。なぜ心に描いた未来予想図が、思ったとおりにかなえられていくという発想ができるのでしょうか。この歌詞に限らず、私たちは日常生活の中で夢がかなう、目標は達成できるなどと信じています。どうしてそんなことが信じられるのでしょうか。

 こうした発想を社会学では、「予言の自己成就」あるいは「予言の自己実現」と呼んでいます。予言の自己成就とは、「状況に対して規定された思いこみや決めつけが、それに基づいて行われた行為によって現実になってしまうこと」です。そして最初の思いこみや決めつけを「自己成就的予言」と呼びます。

 予言の自己成就という考え方を「未来予想図II」あてはめて考えることができます。この歌には1組のカップルが登場します。そのカップルの女性が、二人で過ごす未来予想図を想像しています。心に描くと言っていることから、おそらくは彼にはあまり話をしていないと思います。彼女が自分が描いた未来予想図という規定に従って、彼に対して様々な行動を行うと、その行動を察知して彼が彼女に合わせて行動するようになるでしょう。このことは地位と役割でも行為の図式でも説明しました。愛があれば・・・。その結果、彼女が思い描いたようになっていきます。もしも彼女が未来予想図を思い描いていなければ、そうした結果になるかどうか、その可能性がきわめて低いでしょう。
 以前、あるテレビ番組で「未来日記」というコーナーがあったのですが、これは予言の自己成就という理論を応用したものです。このコーナーに参加した人は、日記に書かれたように行動しなければなりません。そしてその行動をしているうちに、何もなければ生じえないであろう感情をもち、本当に日記に書かれたようになっていきます。

 予言の自己成就の例をいくつかあげておきましょう。
 本当は倒産する危険性はまったくないにもかかわらず、「A銀行は倒産する」といううわさが流されたとします。このうわさを信じた何人かの預金者が銀行の預金を引き出します。それをみた他の預金者も、倒産のうわさを信じて、預金を引き出します。その結果、預金が少なくなったA銀行は本当に倒産してしまいます。これは社会学のテキストによく用いられる実際にアメリカで生じた事件です。
 予言の自己成就という理論はもともと「状況の定義」という発想から生まれました。状況の定義は、特定の場所に集まった人々がそれぞれ自分たちが置かれた状況を、自分で定義し、その定義に従って行為するという考え方です。たとえば、

 製品開発のため山荘に集まったメンバー。一人が「キャンプみたいだね」と言う。その言葉を聞いた他のメンバーも同じように感じる。その結果・・・、会社内で商品開発を行うという雰囲気ではなく、キャンプのような和やかな雰囲気ができあがってしまいます。私たちは「状況の定義」、言い換えればその場の雰囲気の影響を強く受けてしまうのです。

 それでは予言はいつでも自己成就してしまうものだのでしょうか。
 例えば、長い間友人としてつきあっているうちに、なんとなく恋心が芽生え、好きになった人がいるとします。とてもいい雰囲気だったのです、意を決して告白しました。しかし実は相手は友人としてはいい関係だと考えていましたが、他に好きな人がいたのです。告白した結果、友人としていい雰囲気が維持できなくなり、仲が悪くなってしまいました。こうした予言した結果、予言とは逆の結果になってしまうことを、予言の自己破壊、行われた予言を自己破壊的予言と呼びます。

 次に予言の自己成就を発展させた理論を紹介したいのですが、そのために新しい題材を用いましょう。新しい題材は次の作品です。

卒業/作詞・作曲・歌:尾崎豊

 「卒業」の中で注目したのは、次の歌詞です。

「行儀よくまじめなんて」
「従うことは負けることと言いきかした」
「仕組まれた自由」、「支配からの卒業」

これらの歌詞の背景には何が隠されているのでしょう。

 この曲の歌詞の背景には、「予言の自己成就」という発想があります。ここでは人あるいは集団にレッテル(ラベル)を貼るという予言が行われています。

 たとえば「卒業」では、教師が生徒に対して「行儀よく真面目」というレッテルを貼っていると歌われています。こうしたレッテルが貼られると、レッテルと貼られた人間に、周囲の人間はそのレッテルに従って対応するようになります。レッテルを貼られた生徒は、それを期待された役割だと受け取り、そのとおりに行動するようになってしまいます。ここではレッテルが明示された役割になっているのです。
 もしもこの生徒にレッテルが貼られていなければ、周囲の生徒の対応は変化しません。こうしたレッテルを貼るという形の予言の自己成就をとくに、「ラベリング」と呼びます。

 さてもともとラベリング理論は、犯罪や非行などのいわゆる「逸脱行動」の説明のために考え出されました。
 従来の逸脱行動の説明では、逸脱行動は本人の人格や環境に原因があると考えてきました。たとえば貧困のために犯罪者になる、悪い仲間がいるから非行にはしるなど。しかし逸脱行動の原因を本人に起因すると考えられないケースがあります。少年の非行では原因を本人に認められないケースの方が多いかもしれません。


 そこで登場してきたのが、ラベリング理論です。ラベリング理論では、逸脱行動の原因はレッテルに対するまわりの人間の対応にあると考えます。たとえば、ちょっとはめを外しただけの少年の行動に対して、周囲の大人が「非行だ」と決めつけ、非行少年のように扱っていったら、そうしなければさらに逸脱行動をしなかった少年が犯罪を犯してしまうのです。


 こうしてラベリング理論は、それまで逸脱行動の説明を根本からひっくり返しました。ここで興味深いのは、逸脱行動というのは、本人が逸脱的な行動をしているから逸脱行動になるのではなく、社会が「逸脱行動だと定義すること」が逸脱行動になる、ということです。現在は逸脱行動とされない行動が過去、あるいは未来、別の社会では逸脱行動とされることがあります。
 たとえば殺人は逸脱行動ですが、戦時中に敵の兵士を殺すことは逸脱行動ではありません。女性が肌を露出させることは日本では逸脱行動ではありませんが、イスラム社会では逸脱行動です。ようするに社会の対応によって行動の意味づけが変わるということです。

 ラベリングの応用として、自分自身にレッテルを貼るということがあります。「卒業」では、「従うことは負けることと言いきかした」と歌われますが、これはまさに自分自身にレッテルを貼っているのです。これを応用すれば、「私はきれい」、「私は賢い」というレッテルを貼れば、そのようになるのかもしれません。
 このようにレッテルには本人にとって否定的なものだけでなく、肯定的なものもあります。

 さて尾崎は「卒業」の中で、「仕組まれた自由」「支配からの卒業」という言葉を使っています。これはどういうことでしょう。端的にいえば、ラベリングというのは、周囲の人間の対応によって個人の行動を拘束する力になるということを示しています。教師の無自覚でおろかな発言によっていじめの対象になった生徒がいますが、学校においては、教師は権力を行使する構造になっています。ラベリングが権力と同時に行われると、強力な拘束力を持ち、いじめの発端になります。宗教的には、言葉自体に「力」があると考えるのですが、私たちは状況をよく把握し、適切な言葉を発すべきでしょう。

 最後にラベリングは拒否できるのか、という問題が残ります。予言の自己破壊という現象があるように、ラベリングも拒否したり、否定したりすることは可能です。否定的なラベリングは、周囲の人間にイメージが固定化しないうちに否定しましょう。固定化してしまったら、周囲に働きかけて協力を得ることができれば、打ち消すことは可能です。しかしいったん、レッテルが固定化してしまうとそれを解体するのは簡単ではありません。


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